ものごとをありのままに見れないー2 | 松野哲也の「がんは誰が治すのか」

松野哲也の「がんは誰が治すのか」

治癒のしくみと 脳の働き

「百聞は一見に如かず」という諺にもあるとおり、ヒトを含めた多くの動物は、目から膨大な情報を得ています。

 

 

 網膜に入射した光(光子)はどのように処理されるのでしょうか。

 

 

  下図は網膜の一部の断面図です。

 

 

 

 

 

 

 黒く見えるのは色素で標本を染色したためで、網膜は半透明で天の羽衣のような0.25mm(ヒトの場合)の厚さをもった膜です。

 

 下図は私が以前実験(インターフェロンの神経網膜でのグルタミン合成酵素誘導に及ぼす抑制機構の解析)に使ったニワトリ胚の網膜です。

 

 

 

 

 

  

 

  最初の図で光は上から来て下に進んでいます。網膜が半透明なので通過できる光子を吸収するのは下(網膜の下層)にある視細胞の先端の外節と呼ばれる部分で、それがずらっと並んでいるのが図の縦縞です。網膜を間隔なく敷きつめています。縦縞の上にある黒い顆粒の集まりは視細胞の核です。ほかにもこのような顆粒の層が上方に2っ見えますが、いずれも細胞の核で、その上のものが神経節細胞の核です。上方から来た光はこのような網膜内の細胞をすべて通過して、一番奥の視神経外節に到達します。

したがって途中の細胞はすべて透明であり、実際にはこの図のように黒くはありません。

 

 このような標本写真を何十枚、何百枚も顕微鏡や電子顕微鏡それに走査電子顕微鏡で観察し、細胞と細胞のつながりなどを調べ、作った模型図が下図です(池田光男+芦澤雅子『どうして色は見えるのか』(平凡社)等から転載。その下の図は視神経細胞の走査電子顕微鏡写真)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下に縦に並んでいるのが視細胞。その下端の横縞模様(層状膜)の入っているところが外節。光はここに吸収される。それが神経の中に光を取り込む最初の動作である。これによって視細胞の電位がほんの少し(数ミリボルト)変化する。つまり視細胞が光に反応し電気的な変化が生じる。この変化が次の双極細胞(Hは水平細胞)に伝えられ、さらに神経節細胞に伝えられる。このように反応は網膜の奥から表面層へ向けて、つまり光の方向に逆らうように送られる。

 神経節細胞からは長い軸索が伸びている。これが視神経である。すべての視神経は網膜の表面を這うように乳頭まで伸び、視交叉を経て視床の外側膝状体に至る。ここで神経節細胞の軸索はやっと終わりになる。外側膝状体からは再び長い視放線という神経が伸びて大脳視覚野まで繋がる。

 

 

 次回は色が見える仕組みについて述べることにします。