ホテルにはUG情報というのがある。
Undesirable Guest(アンデザイアブル ゲスト)の略で、招かれざる客という意味だ。
この情報は近辺のホテル同士で共有し、Aホテルから回って来たUG情報にあった名前が自分のホテルにチェックインした場合、要注意人物とし様子を見ながら場合によっては警察に通報する事になっている。
ある日、客室清掃業者のおばちゃん、いや有村主任がフロントに来ると神妙な顔で「1015のお客様、4泊目なんですけど様子がおかしいんですが・・・。」
「1015?あ、UGの客だ!どんな感じですか?」
「見た目は普通の中年女性なんですけど、毎日トイレットペーパーを3.4個要求されるんですよ。」
予定では7泊の連泊で受けている。
しかし、トイレットペーパーは予備に2ロールは置いてあるので、毎日そんなに要求したら10ロール以上を使用しているというのか?
しかし、現時点では何か犯罪を犯している訳でもない為、我々はしばらく様子を見ることにした。
そんなある日、珍しく野川さんと俺が日勤になっていた。
「瀬戸さんも彼氏と別れたらしいよ。」
野川さんがボソッと言った。
そういえば朝から瀬戸さんの元気がないというか、まだ笑顔も見ていなかった。
「瀬戸さんは?」
「瓜田課長に呼ばれて事務作業手伝ってる。」
「瀬戸さんが田宮さんに言ってたんですか?」
「うん。」
「女性陣は仲良いんですね(笑)」
「早まったかな。」
「えっ?」
「田宮さんと付き合ってなかったら瀬戸さんと付き合いたかったなぁ。」
「そんなに瀬戸さんいいですか?」
「可愛いしエロい感じがいいよ(笑)」
「うちの女性陣って田宮さん以外みんなお嬢さんらしいじゃないですか。」
「田宮さんもお嬢さんだよ。父親は社長じゃなくて教師だけど、母親も教師だし。」
「でも珍しいですよね。橋本さんも谷川も、バイトの瀬戸さんに佐伯まで、みんなお父さんが社長らしいじゃないですか。」
「そうだよね。」
「あ、そろそろ休憩入っていいですよ。」
「え?俺先でいいの?」
「はい、どうぞ〜(笑)」
「じゃあ先に入るね。」
野川さんが昼休みに入ると、瓜田課長の所から瀬戸さんが戻って来た。
「あ、瀬戸さんも休憩入っちゃいなよ。」
「はい、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だから(笑)」
「じゃあ、すみません入りますね。」
「あっ!」
「はい?」
「まだ橋本さん達に聞いてないけどさー、今度みんなで飲みに行こうか(笑)」
「あ、はい(笑)」
なぜか急に、自然と誘ってしまった。
橋本さんより瀬戸さんの方に、この時既に気持ちが傾いていたのかも知れない。
〜つづく〜