ホテルマンは3年で辞めました【45.ヤナダと申します】 | SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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 野川さんとナイト勤務。  


「ヤナダ君さあ、田宮さんのこと嫌いなの?」


「えっ?何ですかいきなり(笑)」


「いやあ、開業準備室の頃さ、田宮さんが泣いちゃった事あったでしょ?あの時、俺が結構なぐさめてて、それから何となく仲良くなったんだよ。」


「なぐさめたんですか?よくそんな気になりましたね(笑)」


「いや、華奢だし可哀想だなって思って。」


「華奢は関係ないでしょ(笑)」


「そっか(笑)で、今付き合ってるんだよ。」


「はあ?マジですか?(笑)」


「マジ(笑)」


「へえ〜。」


「田宮さん嫌い?」


「ん〜、彼氏に言うのも何ですが苦手ですね(笑)」

 

「ヤナダ君もそうなんだ。みんな苦手って言うんだよね。」


「ああ、でしょうね(笑)」


「あの子なりに一生懸命なんだけどねえ。」


「分かりますけど、あの開業準備室の時のあれが全てじゃないですか?」


「うん・・・。」


「一緒にフロントにいても、自分以外の人間を下に見てる感じがしますしね。私がいちばん仕事が出来る!って思ってるタイプでしょ。藤田さんとかによく怒ってたじゃないですか。」


「ヤナダ君には何も言わないでしょ?怖いって言ってたから(笑)」


「えーっ?どこがですか!」


「分からないけど(笑)松田さんもあの時以来怖いって。」


「自分に注意してきたり、何か言ってきそうな人間には弱いんじゃないですか?」


「だからヤナダ君を恐れてるんだよ(笑)」


「あのー、悪いですけど俺、あの事件以来、田宮さんは視界に入れてませんよ。」


「そうなの?やっばりヤナダ君怖いよ(笑)」


「てか、野川さん瀬戸さんの事が好きなんじゃないんですか?」


「瀬戸さん?いいよね〜(笑)誰から聞いたの?松田さん?」


「はい(笑)」


「田宮さんはガリガリでしょ?だから瀬戸さんのあのボン!キュン!ボン!はそそるよね(笑)」


そんな話をしていた深夜2時を過ぎた時、中年の男性と30前後位に見える女性のカップルが入って来た。


「予約したヤマクラですけど。」


キーボードを叩き出し予約を確認する。


「下のお名前お願いできますか?」


「シンジ、ヤマクラシンジ!」


確認するとシングルでこの男性1人の予約だった。  

 

「山倉真司様、本日シングル1名様でご予約頂いておりますが・・・」


「おう!」


「2名様に変更されますか?」


「いいよ!それで!」


「ご予約頂いてますのがシングルですので、お2人ですともうひと部屋シングルお取り頂くか、ダブルかツインのお部屋となりますが・・・。」


「ああ?いいんだよ!シングルで!」


男は酒に酔っていた。


「シングルですと2名様でのご利用はご遠慮頂いておりまして、本日ツインでしたらお取りできますが。」


「ああ?お前名前何ていうんだ?俺はここの社長知ってんだぞ!」


「そうですか。ヤナダと申します!」


俺はムカつきながら名刺をカウンターに出して続ける。


「それではキャンセルにしましょうか?」


「うっ?うぅ、じゃもういい!ツインにしてやるよ!」


こうしてセコい男をツインに押し込んだのだった。


翌朝、バックオフィスであがる準備をしていると、橋本さんが「ヤナダさ〜ん、ゆうべ1012号室の山倉様と何かありました?」


「ん?ああ、あったよ。」


「ヤナダさんに謝っといてくださいって帰って行きましたよ。」


酒の力を借りなければ強くなれない小心者。


そんな男と付き合う女も、大したことないね。


〜つづく〜