野川さんとナイト勤務。
「ヤナダ君さあ、田宮さんのこと嫌いなの?」
「えっ?何ですかいきなり(笑)」
「いやあ、開業準備室の頃さ、田宮さんが泣いちゃった事あったでしょ?あの時、俺が結構なぐさめてて、それから何となく仲良くなったんだよ。」
「なぐさめたんですか?よくそんな気になりましたね(笑)」
「いや、華奢だし可哀想だなって思って。」
「華奢は関係ないでしょ(笑)」
「そっか(笑)で、今付き合ってるんだよ。」
「はあ?マジですか?(笑)」
「マジ(笑)」
「へえ〜。」
「田宮さん嫌い?」
「ん〜、彼氏に言うのも何ですが苦手ですね(笑)」
「ヤナダ君もそうなんだ。みんな苦手って言うんだよね。」
「ああ、でしょうね(笑)」
「あの子なりに一生懸命なんだけどねえ。」
「分かりますけど、あの開業準備室の時のあれが全てじゃないですか?」
「うん・・・。」
「一緒にフロントにいても、自分以外の人間を下に見てる感じがしますしね。私がいちばん仕事が出来る!って思ってるタイプでしょ。藤田さんとかによく怒ってたじゃないですか。」
「ヤナダ君には何も言わないでしょ?怖いって言ってたから(笑)」
「えーっ?どこがですか!」
「分からないけど(笑)松田さんもあの時以来怖いって。」
「自分に注意してきたり、何か言ってきそうな人間には弱いんじゃないですか?」
「だからヤナダ君を恐れてるんだよ(笑)」
「あのー、悪いですけど俺、あの事件以来、田宮さんは視界に入れてませんよ。」
「そうなの?やっばりヤナダ君怖いよ(笑)」
「てか、野川さん瀬戸さんの事が好きなんじゃないんですか?」
「瀬戸さん?いいよね〜(笑)誰から聞いたの?松田さん?」
「はい(笑)」
「田宮さんはガリガリでしょ?だから瀬戸さんのあのボン!キュン!ボン!はそそるよね(笑)」
そんな話をしていた深夜2時を過ぎた時、中年の男性と30前後位に見える女性のカップルが入って来た。
「予約したヤマクラですけど。」
キーボードを叩き出し予約を確認する。
「下のお名前お願いできますか?」
「シンジ、ヤマクラシンジ!」
確認するとシングルでこの男性1人の予約だった。
「山倉真司様、本日シングル1名様でご予約頂いておりますが・・・」
「おう!」
「2名様に変更されますか?」
「いいよ!それで!」
「ご予約頂いてますのがシングルですので、お2人ですともうひと部屋シングルお取り頂くか、ダブルかツインのお部屋となりますが・・・。」
「ああ?いいんだよ!シングルで!」
男は酒に酔っていた。
「シングルですと2名様でのご利用はご遠慮頂いておりまして、本日ツインでしたらお取りできますが。」
「ああ?お前名前何ていうんだ?俺はここの社長知ってんだぞ!」
「そうですか。ヤナダと申します!」
俺はムカつきながら名刺をカウンターに出して続ける。
「それではキャンセルにしましょうか?」
「うっ?うぅ、じゃもういい!ツインにしてやるよ!」
こうしてセコい男をツインに押し込んだのだった。
翌朝、バックオフィスであがる準備をしていると、橋本さんが「ヤナダさ〜ん、ゆうべ1012号室の山倉様と何かありました?」
「ん?ああ、あったよ。」
「ヤナダさんに謝っといてくださいって帰って行きましたよ。」
酒の力を借りなければ強くなれない小心者。
そんな男と付き合う女も、大したことないね。
〜つづく〜