深夜0時、サヤマ運輸のバイトに坪倉総理が到着。
倉庫内を見渡すと、人がいつもより少ない。
原田さんも休みらしく、知っている顔が誰一人いないのだった。
そう思いながらとりあえずいつものポジションに向かうと見覚えのある顔が見えたので、坪倉が挨拶をしながら近寄って行く。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
「いつも朝からですよね?」
「ええ、一昨日から何日か派遣がいないので、夜に来れたら来てって支店長に頼まれたんですよ。」
「えっ?派遣いないんですか?」
「ええ、ここに入ってたジョブサポートっていう派遣会社が派遣社員を社会保険に入れるのを拒否してたのがバレたらしくて、労働基準だか派遣法に引っ掛かったみたいで消えちゃったらしいですよ。」
「消えた?」
「よく分かりませんけど、新しい派遣会社が決まるまでバイトしか来ませんよ。」
「そうですか。あ、坪倉と申します。宜しくお願いします。」
「あ、村田です。よろしく。」
見たところ、村田さんは坪倉と同年代のように見えたが、忙しくて無駄話をする余裕が無かった為か、あっという間に夜が明けたように感じる。
そして8時になった瞬間!村田さんはあっという間に帰ってしまった。
「坪倉さん!今日もう少し残れない?」
帰ろうとした時に支店長に呼び止められた。
「すみません、この後用事があるので・・・。」
「そうですよね。」
深夜の派遣社員が全く来ていないのだから、本来なら終わっているはずの仕分け作業が終わらないまま、後は出勤して来たドライバー達がそれぞれ自分の担当区域を仕分けしながらトラックに積んでいる。
「新しい派遣社員はいつから来るんですか?」
支店長に坪倉が聞いた。
「なるべく早く派遣会社を決めたいんだけど、慎重に選ばないとなあ。」
「そうですよね。」
「派遣社員も適当な奴ばかりだとね。」
そう、倉庫に来ている派遣社員は本当に適当な人間が多いのだ。
挨拶をしないのは当たり前で、隙あらば何分でもトイレから出て来ないでサボる人や、仕分け作業も間違いだらけ。
日雇いだからその日1日しかその倉庫に来ない人もいる為、出来るだけ楽して日当を貰おうという人間が少なくないのだ。
倉庫を出て歩き出すと、前から原田さんがやって来た。
「あれ?原田さん!どうしたんですか?派遣は大丈夫ですか?」
「おはようございます。派遣のこと聞きました?」
「ええ。こんな時間にどうしたんですか?」
「8時半に支店長と面接なんですよ。」
「えっ?面接?」
「はい、ジョブサポートが無くなっちゃったから、直のバイトにならないか?って支店長に誘われて。」
「なるほど・・・それで面接ですか。」
「はい。給付金の件もあったんで新たにキチンと面接しなきゃならなくなったらしくて。」
「給付金?」
「ええ、あ、聞いてないですか?」
「ええ、それは何も。社会保険に入れさせないから消えたと・・・。」
「それだけじゃないんですよ。何か戸越とか目黒地域の仕分けをしていた藤田と丸山ってのがいたんですけど、あいつらただのフリーターなのに自営業と偽って、去年コロナ関連の給付金とか支援金を100万とか数回も騙し取ってたらしいんですよ。」
「えっ?そんな人がいたんですか!?それで捕まったんですか・・・。」
「いや、捕まってはいませんよ。2人とも金が入ったとか次は50万円振り込まれるとか、よく言ってましたから誰かが税務署か国税庁にでもチクったらすぐ逮捕でしょ。あ、厚生省かな。」
帰りの車の中で酒井官房長官にそのことを伝え、給付金詐欺に対しての調査を更に強化するよう、各省庁に通達をした坪倉総理だった。
〜つづく〜
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