「総理はなぜこうまでして国民の事を知りたいと思うんですか?」
夜勤明けの朝陽が眩しい車中で、運転する酒井官房長官がおもむろに聞いた。
「我々は常に国民に寄り添い、国民の声を本当に聞いているだろうか。今、国民がどんな状況でどういう暮らしをしているか、酒井さんは把握していますか?ぼくは正直言って自信がない。それが理由ですよ。」
「確かに、私達は国会議員と言えど、議員同士の狭い世界の中しか実際は知らないのかも知れませんね。」
「ええ。国民の方が沢山の人々と出会い、触れ合い、いろいろな世界を見ていると思いますよ。我々はある意味、小さな世界から沢山の責務を果たしていかなければならないんです。」
「世界に視野を向けるのもいいが、まずは足元!ですかね。」
「ええ、世界情勢も大切ですが、まずはこの国の人々が幸せに暮らせるようにしなければ、我々はなんの為に議員バッジを付けているのか・・・。」
「ん・・・そういう総理だからこそ、あの襲撃に遭っても神様が守ってくれたのかも知れませんね。」
「ハハハ、いえ、ぼくは神様に好かれるような事は何もしていませんよ。」
「神様がいるなら、私利私欲の為だけに議員バッジを付けているような議員を成敗して欲しいです!世襲議員ほど目立ちますしね。」
「世襲が悪いとは言いませんが、そういう家庭で育ったからこそ国民とは壁があるようにも感じます。」
「子は親の背中を見て育つ!だから世襲議員に悪人が多いのかと・・・。」
「そんな、世襲議員でも素敵な人はいますよ!まあ、我々は目の前のできる事から着実にやって行きましょう。全力でね!」
これまで坪倉総理と私的な話を殆どする機会がなかっただけに、夜勤バイトが始まってから車中での会話をいつの間にか楽しみにしていた酒井官房長官だった。
〜つづく〜
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