ハミングバードvol.1 | R.Gallagherの世界一面白いブログ!!

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星野源の“SUN”を聴きながら、布団の上で横になっていつもの様に自堕落な土曜の午後を遣り過ごしていた。心地の良いメロディーやリズムと実直な歌詞の溶け合い方に魅せられながら、希望も視えずに無為に過ごす週末の虚しさを紛らわせていた。ふとガラケーを手に取ると、見知らぬ女性の名前のアカウントからのTwitterのリプライの通知のメールが来ていた。
若干、驚きながらTwitterのページを開くと、
「ずっと隠れファンでした!良かったら会って下さい!!」とのリプライだった。
隠れファン。厭な言葉だ。
園田真梨と言う女子大生の実名らしきアカウントだったので、その娘のページを読み遡ると、意外と特に不審な部分は見当たらなかった。如何にも音楽と文学が好きな普通の女子大生のさり気無い呟きが並んでいた。自己紹介文も、渋谷の著名なミッション系の大学の学生である事や、音楽や文学が好きな事が簡潔に綴られていた。肝心のアイコンの画像も、本人の顔写真らしく、何処と無く武田玲奈に似ていた。だからフォロワーの数も多く、それは4桁に届いていた。翻って本人は好きな有名人と実際の友人を合わせても50強のアカウントしかフォローをしていなかった。邦楽と洋楽のミュージシャンをバランス良くセレクトしていた。趣味も話も合いそうだし、問題無い、会ってみよう。そう思った僕は同義語反復だが件のリプライに返事をした。
「いいよ。夕方5時に渋谷のタワーレコードの5階の洋楽フロアのオアシスのコーナーで待ってます。いたら話し掛けて下さい」
暫くすると返信が届いた。
「今日いきなりですか?笑」
「厭なら別にいいけど」と僕は応えた。
「いや、行きます!!」との返事が届いた。話が早くて良い。善は急げとはこの事だ。
僕は布団から起き上がると直ぐに身仕度を始めた。部屋着の上下の黒いスウェットを脱いでリーヴァイスの青のジーンズを履き、白い無地のTシャツの上にやはりリーヴァイスの青のジージャンを羽織った。足元には普段の黒のクロックスではなく、ちゃんと白の無地の靴下を履いて取って置きのアディダスの黒地に白の三本線のスニーカーを選んだ。ノエル・ギャラガーの影響で、僕はサッカー用のスパイクみたいな同様のデザインのスニーカーを沢山持っているのだ。ただ、学生の頃に買った三種類のスーパースター(ハイカットとかノーマル・タイプとか、どれも微妙に形状が違うのだ)やアメリカーナは大事に押し入れに保管してあるので、八年前に買った比較的に廉価だったそれを玄関の靴箱に待機させている。このスニーカーを履くのも実に一年振りだ。

アパートを出て駅に向かう途中の桜が既に散った春の終わりの道を歩いていると、久々に自分の心が高揚しているのが分かった。お早う小鳥さん達。既に夕方に差し掛かっていたがそんな気持ちだった。

電車に乗ると、家族連れや恋人同志の乗客で少し混んでいた。いつもなら引け目を感じる僕だが、その日は切っ掛けが切っ掛けなので幸いにも自分がこの世の負け犬の様な気分に苛まれる事は無かった。

渋谷の改札を出るとまだ夕方の4時前だった。しかし特に他に寄りたい場所も思い浮かばなかったので、僕は真っ直ぐにタワーレコードに向かった。店に入ると取り敢えず、エスカレーターで二階の雑誌の売り場に足を運んだ。ノエル・ギャラガーが表紙の海外の雑誌が無いかを探したが、見付からなかった。次に三階に進み、邦楽の売り場の松田優作のコーナーをチェックしてみた。ゴールデン・ベストの様なアイテムが出ていないかを、タワーレコードに寄った際にはいつも確認しているのだが、今日もそれは見当たらなかった。いつかは松田優作の歌を聴きたい。そして僕は五階の洋楽の売り場に向かった。

腕時計を視るとまだ4時20分だった。先は長いな。端的に、そう感じた。仕方が無く僕は、先ずはエドガー・ジョーンズの新譜が知らぬ間に出ていなかったかを確認したが、幸か不幸か何も無かった。それからゆっくりと、AからZまでのコーナーを廻る事にした。ネットでも音楽雑誌でも、毎日の様に新譜の情報はチェックをしているので、意外な作品に出くわす事は無かった。
「田中さん?」と、聞き覚えの無い若い女性の高い声が後ろから僕を呼んだ。
後ろに振り向くと、やはり若干、武田玲奈に似た女の子が微笑んでいた。
「えーと、園田さんですか?」
「はい」と彼女は笑顔で頷いた。「オアシスの売り場にいないじゃないですか」
「もう、そんな時間?」と訊きながら腕時計を視ると、確かに5時を過ぎていた。「ごめんごめん、売り場に夢中になっちゃって」
「いえいえ、でも何か、想像と同じです」と彼女はやはり微笑んだ。
「何が?」
「行動が」と彼女は応えた。「顔もブログやTwitterの画像のまんまですね」
「君もね」と僕は応えてみたが、「武田玲奈に似てるね?」とは続けなかった。人は必ずしも有名人に似ている事を指摘されて喜ぶとは限らないからだ。それは当然、僕もそうだ。
「何処に行こうか?」と僕は訊ねた。
「何処でも大丈夫です」
「煙草が吸いたいから、渋谷の外れのドトールでもいいかな?この辺は何処も混んでるから」
「はい」と彼女は頷いた。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」

ドトールに向かう途中は軽く世間話を続けた。彼女の明るく朗らかな性格が、初対面と言う不安要素を掻き消してくれた。
「いつ、僕を知ったの?」
「去年の今頃です」
「切っ掛けは?」
「今、2年生で、入学して直ぐにバンド・サークルに入ったんですけど、そこで親友になってくれた娘が、田中さんのデモCDを聴かせてくれたんです」
「デモCD?」
「正確には、田中さんの昔の地元で出回っているデモ・テープをCD-Rに焼いてくれたんです」
「その親友は何者?」
「田中さんが昔、地元で働いていたコンビニのお客さんだった子です」
「世間は狭いね」と僕は応えた。想定の範囲内だ。「それで隠れファンになってくれたの?」
「はい」
「どれくらい、把握してるの?」
「TwitterとYouTubeとアメブロを全部です」
「GREEは?」
「GREEはちょっと……」と気まずそうに彼女は応えた。SNSの世界の勢力分布図が頭の中で確認出来て、僕は苦笑いをした。
「大学では何を勉強してるの?」
「フランス文学です」と、気まずそうに彼女は応えた。
「素晴らしいね」
「何がですか?」と、意外そうに彼女が訊ねた。
「フランス文学を選ぶ感性がだよ」
「ドイツ文学じゃなくてもいいんですか?」
「ドイツ文学は、いつか俺が勉強したいから」と僕が応えると、彼女は安心した様にやっぱり微笑んだ。
「田中さんは、本当にドイツが大好きですね」
「偶然だけどね」
「偶然?」
「シューマッハーとシュヴァインシュタイガーがドイツ人じゃなくて、オアシスのギャラガー兄弟がイギリス人じゃなかったら、俺の人生は全然違っていたと正直思うよ?」
「ですよね……」と彼女は応えた。流石にGREE以外の僕のSNSを全てチェックしているだけも有って、彼女は飲み込みが早い。僕は良いファンを持った様だ。
「好きな作家は誰なの?」
「フローベールです」
「フローベールだと、『感情教育』だったら昔、読んだ経験が有る。詳しい内容は、もう忘れちゃったけど」
「田中さんらしいですね」と彼女が呟いた。
「何が?」と僕は訊ねた。
「『感情教育』を選ぶ感性がです」と応える彼女は、本当に頭の良い娘だと僕は思った。
(続く)


【恒例附記】

僕がノエル・ギャラガーにスカウトをされて、
プロのシンガーソングライターになれた場合の作品の構想は以下の通りです。


ソロ名義一作目:『モノローグス』
サンクチュアリーの一作目:『The Greatest Hits』

DISC1

1.First Words
2.Morning Light
3.黒いカーディガン
4.振り返ったら悲しくなるから
5.空の下で
6.美しい花
7.輝くために
8.影も視えなくて
9.冷たい女
10.償い
11.命綱
12.空を見上げただけだった
13.どんなことにも
14.奪還
15.生きて行くこと
16.不確かな予感
17.命綱(ストリングス・ヴァージョン)

DISC2

1.愛して下さい
2.ペルソナ
3.Crazy Love Melody
4.死に損ない
5.レクイエム
6.真実?
7.No More Dream
8.奏でるべきもの
9.ランドスケープ
10.ソング・オブ・ヴェスパ
11.光が射して
12.日溜まり
13.未来
14.永遠
15.ずっとそばに
16.オプティミスティック


サンクチュアリーの二作目:『シュトゥルムドゥラング』

1.ディスクール.1
2.ディスクール.2
3.フライング・アウェイ
4.スタンディング・アローン
5.シュトゥルムドゥラング
6.ジークフリート
7.汚れた指
8.リフレイン
9.恋は止められない
10.君のせいじゃない
11.ボタン
12.イマジネーション
13.虚勢
14.激情


サンクチュアリーの三作目:『トゥモロー・モーニング、(アイル・ハヴ・ア・フィーリング)ロスト・フォーエヴァー』

1.ありがとう
2.流れの中に
3.君を想って
4.ピュア
5.オーヴァーグラウンド
6.ブラックホール
7.イヴェント・ホライズン
8.ユニヴァース
9.青の座椅子
10.朝顔
11.昼下がりの背徳
12.流れた星が凍った夜に


サンクチュアリーの四枚目:『完璧な幸せ』

以下、収録予定曲

ロックンロール・スター
情況
話していたい
何処にも行かない
少しずつ
残像
行かないで
贖罪
自由
世界の何処かに
晩餐
完璧な幸せ

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