従業員持株会が取得した株式の実質上の株主は、各会員ですが、各会員の持分は管理の目的で、理事長に「信託」されることが一般的です。
これを「管理信託」といい、従業員持株会が取得した株式の名義上の株主は「理事長」となります。
このようにする理由としては、以下の2つが考えられます。
(1)民法上の組合として、配当金の税務上の取扱いを配当所得とするため
(2)各組合員が個人として有している株式と、従業員持株会を通じて有している株式との名寄せを行う事務処理上の手間を省略するため
「管理信託」を行うにあたっては、会員の利益保護に留意する必要があります。
従業員持株会が保有する株式は管理信託によって管理されるので、その議決権は、名義上の株主である理事長が、実質上の株主である会員に代わり行使します。
その代わり、各会員は、自らの持分に相当する株式の議決権の行使について理事長に対して指示をすることができます。
この「指示権」によって、会員による議決権の行使が制度的に確保されることとなるので、重要です。
理事長は、議決権の行使内容を判断するために必要な情報を会員に周知する必要がありますし、会員の議決権を尊重した持株会の運営に努めなければなりません。
会員が理事長に対して特別の指示をした場合、理事長はこの指示に従って議決権を行使しなければなりません。理事長による「議決権の不統一行使」(会社法313条1項)が行われることになります。