従業員持株会が株式を退職従業員から買い取るルール | じじい司法書士のブログ(もんさのブログ改め)

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法律事務所の中で司法書士・行政書士を個人開業しています。50近くになって士業としての活動をはじめました。法律事務所事務員と裁判所書記官としての経験を生かして、少しずつ進歩していければと思っております。

従業員持株会に入っていた従業員が退職するときには、従業員の持分を買い取ります(持分に応じた価格を支払って買い取ることとなります)。


従業員持株会制度をとる会社において、従業員が退職等をして従業員持株会を退会した際の、「強制買戻し」(売渡強制)と、その「価額」(買取代金)について決めておくことは大変重要です。

よくある規約は(退会の持分返還)として「払戻しを受ける持分の評価は、配当還元価額を参酌して行う。」といったものや、買取価額を一定額(通常は、取得価格)に固定するものなどです。


売渡強制条項の有効性、その買取代金について裁判では多々争われてきました〔最判平成7年4月25日集民175号91頁〕が、このような条項の有効性は肯定されてきています


〔最判平成21年2月17日判時2038号144頁〕

※ この事案では、従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額〔※額面株式は廃止されていますが、「取得価額と同額」と読み替えることができると思います。〕でこれを買い戻す旨の合意につき有効と判示しました。

① 当該会社における株式譲渡ルール(以下「本件株式譲渡ルール」という)は、当該会社が社員株主制度を維持することを前提に、これにより譲渡制限に服する株式を持株会を通じて円滑に現役の従業員等に承継させるため、株主が個人的理由により当該株式を売却する必要が生じたときなどには持株会が額面額〔※取得価額と同額〕でこれを買い戻すこととしたものであって、その内容に合理性がないとはいえない。

② 当該会社は非公開会社であるから、もともと当該会社には市場性がなく、本件株式譲渡ルールは、株主である従業員等が持株会に当該株式を譲渡する際の価格のみならず、従業員等が持株会から当該株式を取得する際の価格も額面額とするものであるので、本件株式譲渡ルールに従い当該株式を取得しようとする者としては、将来の譲渡価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面、およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかった。

③ 株主は、上記のような本件株式譲渡ルールの内容を認識した上、自由意思により持株会から額面額で当該株式を買い受け、本件株式譲渡ルールに従う旨の合意をしたものであって、当該会社の従業員等が当該株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれない。

④ 当該会社が、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。


判例は、持株会の目的や売渡強制条項の合理性、キャピタル・ゲイン(株式の価格上昇の利益)の保障の程度、配当実績等を総合的に考慮したうえで、売渡強制条項の有効性を実質的に判断する傾向にあるものと思われます。そうだとするならば、これらの事情如何によっては、売渡強制条項の効力が否定されるおそれがある点には注意する必要があります。