前回の続きです。
会社が発行している株式は1,000株
オーナー社長(甲野太郎)の株式がそのうち900株
オーナー社長がお亡くなりになりましたが、遺言は遺していませんでした(まあ、そんなことはあり得ないのでしょうが。)。
【事例】相続人は、以下のとおりとします。
(1)長男(甲野一郎)後継者(次期社長)
前妻との間の子〔法定相続分3分の1〕
(2)二男(甲野二郎)会社への関与あり
前妻との間の子〔法定相続分3分の1〕
(3)長女(乙原三津子)会社への関与なし
認知された子〔法定相続分3分の1〕
(4)内縁の妻(乙原花子)会社への関与なし〔相続分なし〕
「長男が300株、二男が300株、長女が300株となるのですよね?」とご質問を受けることがあります。
しかし、株式については、1株1株について、長男、二男、長女が法定相続分各3分の1で準共有すると考えられているので、900株全部について、このままでは権利行使できません。
会社法106条
「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りではない。」
ただし書き部分は、株式会社が同意をすれば、共有者の一部だけでも権利を行使できることを明らかにしたものだ、と立法担当者は述べています。この規定は、株式会社の事務処理の便宜のための規定だからです(失念株主を株主と認めて権利行使をさせる場合と同じだそうです。)。
共有者が権利行使者を指定するには、どうすればよいのでしょうか。
会社法は、権利行使者を定めるために、いかなる手続を履践する必要があるかについては何らの定めをおいていません。
相続人間の対立が深刻化し、権利行使者の指定について共同相続人間で合意が得られないような場合に、どのようにして権利行使者を定めるかが問題となります。
相続の場合で言えば、(準)共有者間での内部的な取決めがないので、民法の共有の規定に従って権利行使者を指定することになります。
「権利行使者の指定」が
(1)保存行為にあたれば、相続人が単独でなす(民法252条ただし書)
(2)管理行為にあたれば、共有株主の過半数(頭数での過半数ではなく、持分価格に応じた過半数)で定める(民法252条本文)
(3)処分行為あるいは変更にあたれば、共有株主全員の同意による(民法251条)
ことになります。
【判例】
〔最三小判平成9年1月28日集民181号83頁〕 ■
「有限会社の持分が数人の共有に属する場合、有限会社法22条、商法203条2項にいう社員の権利を行使すべき者は、その共有持分の価格に従い過半数をもって定める。」
〔最三小判平成11年12月14日集民195号715頁〕 ■
「株式が数人の共有に属する場合において、商法203条2項による株主の権利を行使すべき者の指定及び会社に対する通知を欠くときは、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権行使を認めることはできない。」
やはり「持分の価格の過半数をもって定める」と考えられるでしょう。
では、単に持分過半数をもっている者が権利行使者を定めればよいのでしょうか。
事例でいえば、後継者一郎(持分3分の1)と二郎(持分3分の1)の合計が3分の2で持分過半数を制しているので、一郎と二郎が権利行使者を指定してもよさそうなものですが
……続きは、次回に。