準共有株式の(持分)過半数を制すれば、権利行使者を指定できるか | じじい司法書士のブログ(もんさのブログ改め)

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法律事務所の中で司法書士・行政書士を個人開業しています。50近くになって士業としての活動をはじめました。法律事務所事務員と裁判所書記官としての経験を生かして、少しずつ進歩していければと思っております。

前回に続いて、共同相続人間における権利行使者の指定について、です。



【事例】

相続人は、以下のとおりです(被相続人:オーナー社長・甲野太郎)。相続の対象は、発行済株式の90%を占める「株式900株」です。

(1)長男(甲野一郎)後継者(次期社長)

    前妻との間の子〔法定相続分3分の1〕
(2)二男(甲野二郎)会社への関与あり
    前妻との間の子〔法定相続分3分の1〕
(3)長女(乙原三津子)会社への関与なし
    認知された子〔法定相続分3分の1〕
(4)内縁の妻(乙原花子)会社への関与なし〔相続分なし〕
一郎、二郎、三津子間では、権利行使者の指定については「持分の価格の過半数をもって定める」ことになります。


では、単に持分過半数をもっている者が権利行使者を定めればよいのでしょうか……というのが前回でした。

事例でいえば、一郎(持分3分の1)と二郎(持分3分の1)の合計が3分の2で持分過半数を制しているので、一郎と二郎が権利行使者を指定してもよさそうなものですが、次のような裁判例があります。

【裁判例】判文長いですが、記載します。
〔大阪高判平成20年11月28日判時2037号137頁〕
「〔共有〕株式の権利行使者を指定するに当たっては、準共有持分に従いその過半数をもってこれを決することができるとされている……〔が、〕権利行使者の指定及びこれに基づく議決権の行使には、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた制度の趣旨を濫用あるいは悪用するものであってはならないというべきである。
そうとすれば、共同相続人間の権利行使者の指定は、最終的には準共有持分に従ってその過半数で決するとしても、……準共有が暫定的状態であることにかんがみ、またその間における議決権行使の性質上、共同相続人間で事前に議案内容の重要度に応じしかるべき協議をすることが必要であって、この協議を全く行わずに権利行使者を指定するなど、共同相続人が権利行使の手続の過程でその権利を濫用した場合には、当該権利行使者の指定ないし議決権の行使は権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。」


この裁判例は、権利行使者の指定方法について、持分過半数説を採っていますが、従前の裁判例とは異なるところがあります。
(1)共同相続人による株式の準共有状態が、共同相続人間における遺産分割協議や家庭裁判所における遺産分割調停または審判が成立するまでの一時的または暫定的なものにすぎないこと
(2)権利行使者の指定制度は、株式の準共有者が個別に株主権を行使することにより会社の事務処理が煩瑣になることを回避する目的で設けられたものであり、その制度を濫用することは許されないこと
を述べ、
議決権行使の性質上、共同相続人間で事前に議案内容の重要度に応じ、しかるべき協議をすることが必要

であり、

協議を全く行わずに権利行使者を指定するなど、共同相続人が権利行使の手続の過程でその権利濫用をした場合には、当該権利行使者の指定ないし議決権行使は権利の濫用として許されない

と判示していることです。


本件事案でいうと、一郎・二郎連合軍が自分たちが持分過半数を制しているからといって、
・ 三津子に協議を申し入れないまま、権利行使者の指定をしたり
・ 議案の重要度を考えず、一郎・二郎連合軍が、その重要度に応じた協議の申入れ等をしなかったり
することは許されない……ということです。


その後、会社法106条ただし書きについて判断をした裁判例があります。これも判文長いですが、記載します。

〔東京高判平成24年11月28日判例タイムズ1389号256頁〕

「会社法106条ただし書きを、会社側の同意さえあれば、準共有状態にある株式について、準共有者中の1名による議決権行使が有効になると解することは、準共有者間において議決権の行使について意見が一致していない場合において、会社が、決議事項に関して自らにとって好都合の意見を有する準共有者に議決権の行使を認めることに等しく、相当とはいえない。

そして、準共有状態にある株式の議決権行使について権利行使者の指定及び会社への通知を要件として定めた会社法106条本文が、当該要件からみれば準共有状態にある株式の準共有者間において議決権の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られた上で権利行使が行われることを想定していると解し得ることからすれば、同法ただし書きについても、その前提として、準共有状態にある株式の準共有者間において議決権の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られている場合にのみ、議決権行使者の指定及び通知の手続を欠いていても、会社の同意を要件として、権利行使を認めたものと解することが相当である。

よって、本件において、準共有者間に本件準共有株式の議決権行使について何ら協議が行われておらず、意思統一も図られていないことからすれば、被控訴人の同意があっても、※※が代理人によって本件準共有株式について議決権の行使をすることはできず、本件準共有株式による議決権の行使は不適法と解すべきである。

したがって、控訴人の主張するその余の取消事由について判断するまでもなく、本件の各決議は、本件準共有株式に議決権の行使を認めた時点において決議の方法に法令違反があり、取消事由があると認めることができる。」

※※は人名



本件事案でいうと、一郎・二郎連合軍が自分たちが持分過半数を制しているからといって、

・ 三津子に協議を申し入れないまま、権利行使者の指定をした

・ 議案の重要度を考えず、一郎・二郎連合軍が、その重要度に応じた協議の申入れ等をしないまま、権利行使者の指定をした

場合に、会社側から議決権行使を認めて(会社法106条ただし書き)も、不適法であることには変わりない、ということです。



クライアントの方から助言を求められた際には

「真摯に協議することなく、単に形式的に協議をしているかのような体裁を整えただけの権利者の指定ではいけないから、

(1)できるだけ、他の協議者の方に協議に参加してもらえるよう、協議の日程・回数を考えて、提案する

(2)議案内容の重要度に応じた協議を行う

ようにしましょう。協議の働きかけをしたこと、協議内容や経過については証拠化しておきましょう。」と答えるのでしょうね。



……もう1回続きます。