「サキの忘れ物」
津村記久子
コレの続きです

最終話
「隣のビル」
職場でパワハラに遭っている女性が主人公。
彼女は日々、現実逃避をするように、
会社のビルから見える隣のビルの窓を眺めている。
ある日、彼女は会社の窓をよじ登り、隣のビルに潜入を試みる

もう自分のいる世界はどん詰まりでしかないと思っても
たった一歩、外に踏み出せば
それこそ、手を伸ばせば届くような隣のビルでさえ
そこにはまったく違う世界が広がっている。
そしてそこへは
決死の覚悟でよじ登らなくても
ちゃんと今いる場所を出て、
普通に入り口から入って行くこともできるのだ
つまり、
ここが限界だと思ったら、命をかけた逃亡劇をしなくても
ちゃんと通常のやり方で別の場所に行くことができる。
心を傷つけられ続けて力を失っていると
そんなことにさえ気づかなくなってしまう
そんな力さえも相手から奪って当然だと考えるような浅ましい人間が存在する
以前、同じ著者のこの作品
を読んだときにも感じましたが

誰かが理不尽に誰かの心の力を奪うような
人との軋轢で心が擦り減っていく描写がとてもしんどい
だけど一方で
距離感をわきまえながらも相手を思いやるような人間の存在も
たしかに存在して
人を傷つけるのは人間だけども、
また人を癒やすのも人との交流だなと感じる
すごーく密着した人間関係でなくても、
ちょっとすれ違った程度の人間関係でも
優しさや思いやりを交換することはできるし
それが自分にとっては未来に繋がる勇気をくれるものだったりする
この短編集では繰り返し
そんな人間関係の尊重や礼儀正しい優しさが描かれているように思った