
ポトスライムの舟
津村記久子
より
十二月の窓辺
職場で、パワハラ・いじめのターゲットになっているツガワ
唯一ツガワの心のよりどころは、同じビルの他社に勤めるナガトとの雑談
会社のビルの近くで、通り魔事件が頻発しているらしい
とか
あそこのタワーに入ってる企業は社内ホスピタリティが充実してるとか。
閉塞した日々、
ある日ツガワが目にしたものは…
失敗しても罵声
自分に非がなくても叱責
きちんとこなしても非難
辞めろといわれ
辞めるなんて許さないと言われる
または、すべての責任を負わされる
パワハラ・いじめの描写が淡々としていて
それがより恐ろしい
「そんな会社やめちまえ」「そんな上司殴り倒せ」と思えるが
日常的に傷つけられる人にはそのような思考能力さえ失われてる
「いっそのこと殺したい」「死ねばいいのに」
ときおり、唐突とも思える率直さで憎しみが吐露されるが
基本的には、心の中で毒づく余裕すらなく
自分が悪い、自分が消えれば、自分が死ねばという思考に捕われる
すこしネタバレすると
「社内ホスピタリティが充実」と聞いていたはずの企業内でも
とんでもない横暴があることをツガワは知ってしまう
そしてそれを、無関係ながらも告発する
そのことでツガワは自身にかけられた呪いをふりほどくことができる
パワハラからの呪いを振り切ったツガワの静かな覚醒は、
淡々と描かれているが胸がすく思いがした
物語の最後
意外なかたちで「通り魔」と出くわす
その時の反応はとても意外なものだと思った
胸糞悪いことがたくさん起こる小説だったが
ツガワがタワーに小さく手を振るラストシーンは
希望が見えるような不思議と明るい読後感となった