「サキの忘れ物」
津村記久子
ありふれているが少ししんどい日常に起こる
不思議な運命の巡り合わせによる人間関係や出来事を描く短編集
1話目
「サキの忘れ物」
18歳の千春は高校を辞めて、
病院内に併設されたカフェでアルバイトしている。
千春は、いつもカフェで読書をしている知らない女性のことが気になっている
ある日、その女性はカフェに「サキ」という作家の本を忘れていくが…

なぜか
全編通してちょっぴりSFっぽいという印象を持ちました
主人公がなんとなく我慢や切なさを抱えていて、
最後にふんわり報われそうな優しい感じは
今までに読んだ津村記久子作品に共通していると思う
千春はまだ若くて、実家暮らしで
仕事もカフェのアルバイトという、それほど過酷ではないもので
一見するとなにかに貧している様子はまるでない
だけど、圧倒的にいろいろなものに不足している人物だと感じた
尊重し合う人間関係や、自分の可能性、
読書や勉強や、知識を得る喜びなど
自分がなにかに不足していることにも気づかないまま
狭い世界で生きる以外のことを知らないように見える千春に
新しい世界の扉をほんの少し開けてくれたのが
カフェに来る見知らぬ女性と
その忘れ物の本だ
人って巡り合わせというか、ひょんなことで人生の転機が訪れるんだね
物語の最後、千春は無事に新しい世界に出て人生を送っています
もちろん、女性との出会いがなくても
いずれ千春は狭い世界から脱出していたとは思う
だけど確実に
女性との出会いが、千春の新しい人生をより良いものにしたと思う
その見知らぬ女性は、実は未来から来た自分
なんていうベタベタ展開にはもちろんなりません

偶然に袖ふれ合う程度のささやかな人間関係が、
あかるい未来に繋がっていた。