「まともな家の子供はいない」
津村記久子

コレ下差しの続きです



こんどこそ本当に感想文を(笑)



セキコの父親は、ふらふら仕事を辞めているし

母親は事なかれ主義で、セキコには重要な情報は教えてくれないし

その割に、本来なら夫の果たすべき役割をセキコに押し付けたりもする


そのうえ、両親のセックスなんて犬の糞ほど見たくないものを娘に察知させてしまう

ユルくてウザい両親なんだけど



かといって、最最悪な親かというとそうも言い切れなくて

セキコは塾にも行っているし携帯も持たされていて、

父親は無職だけど高校には進学できるだけの蓄えはあるとのこと。



中3にはわからないかもしれないが、

これだけだって当たり前のことではない。



事件になるほど凶悪ではないものの、

この程度のハードモード家庭の子供は、意外に多いのだろう



父親が帰らず、母親が上の空で買い物ばかりしているナガヨシも

母親が、家中の皿を割って出ていってしまったクレも

母親がW不倫した室田も
母親の人間関係のごたごたに影響される大和田くんも

(そしておそらく、死なない程度に暴力を受け続けたものの大学まで出してもらった私も)


そしてそんな
「死ぬほどではないけどそれぞれの事情で行き詰まっている中3生たち」に
共通している苦悩が「塾の宿題」だというところが、
妙でおもしろい。


彼らの家庭の事情はさまざまで、
それをお互い詳しく知ることはないんだけど、
塾の宿題で困っている点に関しては共通している。


大人の私からしたら、
そんなに悩むくらいなら宿題なんてさっさとおやりなさいなと思うんだが
彼らはいっこうに自分の力では宿題に向き合わないっていう(笑)



もうそろそろ宿題やらないとヤバいって…!と読みながらハラハラしたところで
彼らがおもむろに協力し合いながら宿題をやっつけ始めるところは
なんだか胸が熱くなった


お互いの事情を胸をわって話して泣いて励ましあったりはしないけど、
「宿題」という共通の悩みになんとなく協力して立ち向かうことで
なんとなくお互いの事情や気持ちを気にかけたり、思いやる


この、「なんとなく」がちょうど良く優しい
礼儀正しい距離感だとすら思う


まさかまさか、主人公が
ずっとうじうじと疎ましく思っていた「塾の宿題」が、
こんなふうに気の利いた小道具として働くとはね…!


結局、宿題が終わっても
彼らの個々の家庭の問題は、スッキリと解決なんてしないんだけど

自分だけでなく、みんなもいろいろあるんだな。
という実感が、少しセキコを大人に近づけたのではないだろうか



そう遠くない未来には確実に
セキコは自分だけの力で、この家ではないどこかに行くことができるだろう

そのときに、この夏のことや
塾の宿題のことを、セキコは思い出すだろうか

思い出してほしいとなんとなく思った



 

感想文★

 


 

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