ワーカーズ・ダイジェスト
津村記久子
佐藤奈加子と佐藤重信
たまたま会社の取引先相手として出会った二人だが、
苗字も年齢も、誕生日までおなじ
かといってそれがドラマチックな展開になることもなく
淡々と仕事の話をし、昼食で入ったカレー屋でたまたま再度遭遇し、それだけ
それだけのことが、その後のそれぞれの32歳の一年間
死ぬほどのことはないけど、憂鬱でうっとうしくて冴えないことばかり起こる一年間の間に
お互いの脳裏になんどか思い起こされる
一年たち、共に33歳となった日…
とにかくうちに帰りますで本格的に興味をもった津村記久子作品
本作でも同じく、温度の低めの日常が描かれます。
32歳の一年というのがリアル。
仕事以外にもいろいろ見えてくるけど、見えれば見えるほど憂鬱にもなる
この作品でも、ふたりの一年間にさまざまなトラブルが起こるのだが
それがどれも地味にしんどい。地味にという言葉がピッタリ
体の衰え、心の弾まなさ、なにより
自分にはどうにもできない他人からの不穏な感情に振り回される
コレほんとしんどい
お互い、本当に不意にもうひとりの佐藤を思い出すのたけど、
それは「会いたい」や「恋しい」や「心のよりどころ」というエモーショナルな感じでは全くなく
降って湧いたようにお互いを想う。
やはりその温度は低い
だから、最後のほうまで読んでても「これは恋なの?恋じゃないの?」という印象だったのだが
二人が再会するところで、やっぱりこれは恋の話かなと
(とりあえず再会のシーンのトンチキさが好き)
なに喋っていいかわからないのに、逆に喋りたいことが口をついて勝手に出る感じ
重く落ち着いていた感情が、自分でもよくわからない方向に跳ねそうな予感
再会の場面もこれまでと同じ淡々とした文章だけど
かすかにきらきらしていて
なんだか僥倖という感じ
かといって、ふたりの佐藤は
このまま何事もなかったように別れてそれぞれの日常を生きていきそうな感じも
それはそれである
たくさん著作があるのでまだまだ読んでみたい!