「かんむり」
彩瀬まる


 

 

もと中学の同級生、光と虎治の夫婦


ひとくみの若い夫婦が、

生活を営み子供を持って

年老いて人生が閉じていくまでを静かに描いた長編



わたしも結婚をしていますが、

つくづく夫婦とは不思議なものだと思う



家族関係のなかでも、とりわけ不思議じゃないだろうか?

かなり大人になるまでアカの他人同士だったという時点でもうかなり不思議



夫婦を描いた小説によくあるのが

相手の裏切りや不貞、突然の死だと思うんだが


この小説にこれらは一切ありません。



はじめはこれにホッとしたんですが、

そのうちだんだんと恐ろしく心細くなってきました。



だって

大きな事件や不幸がなくたって、


一人の人と夫婦を続けていくのはこんなにも切なく難しい


この穏やかな小説は、それを嫌というほど繰り返し教えてくれるから




光も虎治も賢く、思いやりもある人間である。



だけども、それだけの人間はいないわけで

みんな闇というか、裏側はある


 

 夫でも妻でもない、

一人の人間としてのアイデンティティが揺らぐこともある



当然だけど、加齢によって思考が偏ることもある



何年も顔をみてきて、なんでも知ってると思ってた夫のことを

なんだか初めて見る人のような違和感いっぱいに感じることが私にもあります



いつも通りの会話、同じ毎日

だけどこの瞬間も、破滅にむかってるのかもしれない


わたしはわりと、どんな人間関係にもよくこう上差し思うのだが



夫婦も、夫婦になった瞬間から

離婚か死別にむかっているのだから

あながち見当違いの不安でもないのかな




どんなのが幸せな夫婦生活なのかなんて、

それこそ終わるまでわからない


終わってしまっても、

妻と夫では全然評価が違うかもしれないし





一瞬一瞬の現在を数珠つなぎにして

日々の同じ営みを繋いでいくことでしか未来にはいけない



そう思うと

なんだか逆に開き直りたくなるほどの心細さである




若い光と虎治、中年の光と虎治

年齢を重ねる二人の性描写がたびたびある



それは、ふたりの心や体のどうしようもない変化をあらわにする



性行為をする点でも夫婦は他の家族関係にくらべて特殊ですよね



その結果、子供が生まれたりしてそれがまた家族になって

エロさえも家族に収束される



当然また家族の生活が続く

エロい雰囲気でエッチばかりしているわけはなく


子育てして、仕事して

なんとか家庭を運営して


もはやコミュニケーションといたわりという意味あいの性




若い頃思い描いてた夫婦とは

だいぶ違うってことに今の私は気づいている



今のところは言うほど悪くはない、と

思うけれどもとてもまだ断言はできない



まだまだ道の途上だから



 

 

感想文



 

 

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