光る君へ第8回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第8話「招かれざる者」前編




寛和元(985)年


道長は一人、打毬を

見に来てくれていた

まひろのことを考えていたが…


まひろは道長らの会話に

傷つき恋の文を燃やして

しまった。


月を見上げてまひろは思う。


もう、あの人への思いは

断ち切れたのだから…



姫たちの笑い声が響いている。


無事だった小麻呂も

それを見つめている。


「よいお日和で」


と挨拶しながらまひろは

鼻をすすっている。


「まひろさん、お風邪?」


倫子が聞く。


「いえ…大したことございません」


あの雨の中、小麻呂を探し…

たのは途中までだが、

道長らの話を盗み聞きし

すっかりずぶ濡れに

なっていたのだ。


赤染衛門が他の姫らも心配する。


「打毬の折の雨のせいですわよ。

皆様はつつがなく?」


茅子はにこにこしながら


「打毬がすばらしくて

心が熱くなっておりましたので

雨にぬれても平気でした」


と笑う。


「公任様がりりしくて…

やはり私は公任様だわ」


茅子は公任が気にいったようだ。


「ね?」


「え?道長様ではないの?

あの日は何と言っても

道長様でしょう」


しをりはなんと、

道長に目をつけている…


まひろはなんともいえない表情になる。


「公任様よ」


倫子も意外としをりに同意している。


「私もあの日の公任様は

おとなしかったように思います」


「やはり倫子様も道長様ね」


「ウフフフ…」


まさか倫子まで…?


まひろはさすがに驚いて

倫子を見つめた。


「道長様と息ぴったりの

公達がいらしたけれど

あの方はどなた?」


赤染衛門も楽しそうに尋ねた。


なんと衛門のお気に入りは

あの直秀だった。


3人は


「知らない」


と声を揃える。


「はあ…たけだけしくも

お美しい公達でしたわ」


うっとりと衛門は、

直秀の姿を思い出している。


「衛門ったら、人妻なのに

そんなことを言って」


「人妻であろうとも

心の中は己だけのものに

ございますもの」


倫子にそう衛門が返すと、

皆はキャ〜!と

楽しそうに声を上げる。


「そういう自在さがあればこそ

人は生き生きと生きられるのです」


さらに皆は黄色い声をあげるが、

まひろはハッとしたように

衛門の言葉を聴いていた。



そんな女たちの噂の的に

なっている若者たちは、

あらためて集まり共に膳を並べ

親交を深めていた。


「行成の腹痛のおかげで

道長の弟に会うことができた。

いかにもやり手であったぞ」


斉信は道長と直秀、

二人の肩に手を置いた。


「その折はありがとうございました。

助かりました」


行成が直秀に礼を述べる。


公任は


「行成が来ていたら

負けていたやもしれぬな」


と楽しげに言い鞠を投げた。


「そうかもしれません。

体を使うのは苦手なのです」


行成は正直にそう笑う。


「兄上」


直秀が道長に話しかけた。


「ん?」


「私は身分の低い母親の子ですので

このようなお屋敷は生まれて

初めてです。

是非、お屋敷の中を拝見しとう

ございます」


直秀は辺りを見回して

弟らしい口ぶりで頼む。


「東三条殿は広いぞ。

東宮の御母君詮子様も

時々、お下がりになる」


斉信が道長の屋敷を褒めながら

直秀に鞠を投げた。


「酒のあとゆっくり

案内してもらえ」


公任が言う。


「はい」


「おっ、やっと笑ったぞ。

ハハハハハ」


直秀の笑顔を見て公任も

嬉しそうだ。


…が、道長は直秀の狙いを

読もうとじっと見つめた。


なにせ直秀は自分が、

矢で討った盗賊なのだから…




「兄上」


「はあ…ここには誰もおらぬ」


屋敷を案内していると

からかうように兄上扱いする

直秀に


「兄上はやめておけ」


と恥ずかしそうに言った。


「西門のほかにも

通用門はあるのか?」


素直な問いならともかく、

直秀の素性を知っている道長には

答えづらい質問だ。


「なぜそのようなことを聞く」


「なぜ、と言われてもな…

ただ広いな〜と思っただけだ」


直秀はしゃがんで庭を見る。


道長は探りをいれるように

手をあげながら


「今日の直秀は別人のように見えるな」


と言った。


「俺は芸人だぞ。

何にだって化けるんだ」


「ハハ…そうであったな」


盗賊になぞ、化けてくれなければ…


「ところで左腕に傷があったが

いかがした?」


と、道長はカマをかけてみた。


「散楽の稽古でしくじった」


こともなげに答える直秀。


道長はさらに踏み込んでみる。


「矢傷のように見えたが

何か刺さったか?」


「稽古中、小枝が刺さったのだ。

俺らしくもないことで

我ながら情けなかった」


「ふ〜ん」


直秀は道長に怪しまれている、

いや、見破られていることに

気付かないのか、

さらに細かいことを尋ねる。


「東宮の御母君のご在所は

どこかな?」


「お前は藤原をあざ笑いながら

何故そのように興味を持つ」


「よく知ればよりあざ笑えるからだ」


直秀は鞠を投げた。


道長は鞠を受け取ると

投げ返す。


2人は無言のまま、

鞠を投げ合った。



散楽の者達のところへ

戻った直秀。


立っている直秀の真横に

投げ矢が刺さる。


ギリギリに刺さった矢に


「お〜」


と笑いが起きる。


危ないことを…と、

呆れた様子を見せつつ

まひろは尋ねた。


「直秀はなぜ打毬に出たの?」


「やつらを知るためだ」


「散楽に生かすため?」


「ああ」


まひろは頷く。


「打毬の時、あいつらの

くだらない話、

お前も聞いただろ?」



女は家柄が大事…


公任らの会話を思い出す。



「あの時、お前が走って

いくのが見えた」


そう言われると気まずいまひろ…


「別にどうでもいいけど」


「そうだな。俺もどうでもいい。

もうすぐ都を去るし」


意外な話にまひろは驚く。


「都からいなくなるの?」


「ああ」


直秀はなるべくまひろからは

目を逸らしながら、

こともなげに言う。


「人はいずれ別れる定めだ。

驚くことはない」


直秀は水を飲みながら

それが当然、とばかりだ。


都には長くいたようだが、

藤原家という話のタネが

あったこともあるのだろう。


旅芸人だと思えば

別れがくるのも仕方ない。


が、まひろは寂しそうだ。


直秀はそんなまひろに


「都の外は面白いぞ」


と教えてやる。


「直秀は都の外を知っているの?」


「ああ。

丹後や播磨、筑紫でも

暮らしたことがある」


筑紫、といえば

今の九州である。


ずいぶん遠いところまで

旅をしてきたのだろう。


まひろの好奇心が疼いた。


「都の外はどんな所?」


「海がある」


「海?見たことないわ」


まひろは興味津々だ。


「海の向こうには

彼(か)の国がある。

晴れた日には海の向こうに

彼の国の陸地が見える」


漢詩などの大陸の文化にも

詳しいまひろにとっては

外の国の話ほど、

胸が踊るものはなかったろう。


「海には漁師がおり

山にはきこりがおり

彼の国と商いをする

商人もいる。

都のお偉方はここが

一番だと思って

ふんぞり返っておるが

所詮、都は山に囲まれた鳥籠だ」


まひろからしてみたら

まるで物語で読んだ世界の

出来事のようだ。


…そして、都に閉じ込められて

いるような自分は、

まるで飼われている鳥…


「鳥籠…」


「俺は鳥籠を出て

あの山を越えていく」


直秀は遠くに霞む山を見た。


「山の向こうの海がある所…」


「一緒に行くか?」


直秀はぽつりと聞いた。


まひろは驚き、

直秀を見つめる。


「行っちゃおうかな」


つい、そんな言葉が

まひろの口をついた…


道長と結ばれることなど

それこそ夢のような話だし

このまま自分はずっと、

鳥籠の中にいるのかと思うと

直秀と遠くに行けたら

どんなに新しい世界が

見られるだろうか…


だが、直秀は笑った。


「行かねえよな」


行けるわけがないのだ。


下級、とはいえまひろは

貴族のお姫様である。


直秀とは住む世界が違う。


せっかく誘ってくれたのに、

なぜ答えを出してしまうの?


まひろはそんな顔で、

直秀の気持ちを測るように

しばらく見つめていた…。



朝廷では相変わらず、

権力争いが続いている。


関白の藤原頼忠は


「帝は義懐を従二位に

上げたばかりか、

権中納言にまでなさるそうだ」


と不満を述べた。


兼家と雅信が同時に


「なんと…」


と言葉を失った。


「年末には宣旨が

下るであろう」


「帝はあなた様を追いやって

義懐を関白になさるおつもり

ですぞ」


兼家自身、頼忠にとって代わりたい、

とは密かに思ってきたものの

義懐が横入りしてくるとは

想定外のことだ。


しかし頼忠は力を落としている。


「わしももう終わりだ…」


「弱気なことを申されるな。

ここで義懐ごときに負けて

どうされる」


兼家は頼忠を励ます。


雅信も同じ思いである。


「我々3人がしっかりと

手を結んでおれば

義懐とて勝手気ままは

できぬであろう。

今は我々が仲間割れせぬことが

大事じゃ」


そこで兼家はかねてより

考えていた道長の婿入りの話を

口にした。


「ならば左大臣様、

我が家の三男、道長を

左大臣様の姫に婿入り

させていただけぬか」



兼家からの願いを

持ち帰った雅信だが

本音は気が進まずにいる。


「藤原道長はまだ従五位の下、

右兵衛権佐だぞ。

そのような下位の者を

倫子の婿にできるか」


しかし妻の穆子は

まんざらでもなさそうだ。


「でも、右大臣家の三男で

ございましょう?

偉くおなりになるのは

間違いありませんわ」


「義懐らが力を持てば

何がどうなるか分からぬ。

それに右大臣家は好まぬ」


力を合わせねば、

と言いつつもこれが

雅信の本音でもあった。


兼家はもとより先日は、

その娘の詮子からも

味方になれ、と半ば

脅しすらかけられているのだ。


「関白家の嫡男、

公任殿なら考えんでもないが」


公任の美しさ、

頭の良さは有名である。


「関白家の公任殿は

見目麗しく目から鼻に抜ける

賢さで女子にも大層マメとの

うわさです」


だが穆子からしてみたら、

それが気になるのだ。


「そういう遊びの過ぎる殿御は

倫子がさみしい思いをしそうで

私は嫌ですわ」


「右大臣家の三男とて

先日の打毬の会では

姫たちに大層騒がれた

そうではないか。

赤染衛門がそう申していた」


穆子が雅信をじっと見る。


「あなた、衛門と2人でお話

なさったの?」


衛門も人妻とはいえ、

また美しい女性である…


「廊で会えば話くらいするであろう」


雅信は慌てふためく。


「何か…ホホホホ、嫌」


穆子はヤキモチを焼く。


雅信は余計に悩むことになった。


「わしは今、何を言おうとしていたのだ。

お前が変なことを言うから

分からなくなってしまった。

ああそうであった。

わしは右大臣のあのガツガツしたふうが

何より嫌なのだ」


確かに兼家は剛腕で、

言うべきことは言うし

権力欲も人一倍強い。


優秀な政治家ではあるが、

やはり雅信にとっては

強大な敵でもあるのだ。


「父親を見れば

息子たちはおのずと分かる。

詮子様とて右大臣にそっくりだ」


あの詮子の強引なやり方を

思い出すと雅信は

苦々しい気分になる。


「右大臣のひな型など

この家に入れたくはないのだ」


そこへ倫子の声が聞こえてきた。


「小麻呂」


また小麻呂が逃げたようだ…


「小麻呂が参りませんでした?

またどこかに行ってしまって」


「ああ…ここには来なかったぞ」


穆子がここぞとばかりに聞く。


「あなたは猫にしか

興味がないの?」


「へ?」


「今ね、右大臣家の道長殿を

あなたの婿にどうかしらって

父上と話していましたのよ」


道長殿…思わず倫子は、

顔が赤くなり袖でそれを隠す。


「何だ、そのまんざらでもない顔は」


雅信は情けない顔で言う…


「まんざらでもない顔など

しておりませぬ!」


珍しく倫子が怒ったように言い、

去ってしまう。



倫子は一人になると、

うっとりした顔であの

打毬のときの立派な

道長の姿を思い返した。


「道長様…」


思わぬ婿入り話だったが、

倫子にとっては幸せな

話題であった。



年が明けて寛和二(986)年。


地位の上がった義懐が

皆の前に立ち花山天皇の

言葉を伝えている。


「帝よりお達しでございます。

陣定を当分の間、開かぬこととする」


貴族たちがどよめく。


それでは独裁であるし、

何よりもそんなことになれば

帝と側近だけがいればよく

他の者たちの仕事はなくなる。


「政において帝がお決めになったことに

異論のある者は書面をもって

申し上げるようにとも

仰せですゆえ、

よい意見と判断すれば

上奏いたします」


頼忠はこういう場になると

小声になってしまう。


「判断とは、誰の判断だ…」


「ん?お声が聞こえませぬ」


馬鹿にしたように義懐が

聞き返した。


兼家が怒った。


大声で


「権中納言、義懐、

勘違いが過ぎるぞ!」


と異を唱えた。


雅信もさすがに兼家に同意し


「そのとおりだ!

帝がそのようなことを

お考えなさるはずがない!」


と怒鳴る。


「帝の叡慮に背くは

不忠の極み」


兼家はそれを聞くと立ち上がる。


「不忠とはどちらのことだ。

帝のご発議もまず陣定にて

議論するは古来の習わし。

また、時に帝とて誤りを

犯されることはそれを

お諌め申さぬままでは

天の意に背く政となり

世が乱れかねぬ」


皆が頷く。


兼家の言っていることは

至極、真っ当ではあり

当時の貴族たちはまず

天の怒りを恐れた。


それはたとえ帝であろうとも

好き放題にしていい、

ということはなく帝が

道を間違えないためにも

他の貴族たちが存在するのだ。


「帝がお分かりにならぬとあれば

なぜそなたがお諌めせぬのだ!」


諫言をすることも、

忠臣の役割であり、

これも兼家の意見のほうが

真っ当ではあった。


が、義懐は不敵に笑うだけだ。


「これより帝をお諌めに参る」


兼家はさすがの行動力を見せた。


「関白様、左大臣様」


兼家は二人を誘う。


「うむ」


雅信は強く頷いた。


「待たれよ。

帝は本日はご不例にて」


「どけ!」


「うわっ!」


兼家は義懐を荒々しく

突き飛ばした。


…が、そこで兼家は突然、

立ち止まる…。


そして、そのまま意識を失い

倒れ込んでしまった。


怒りすぎて血圧が

上がってしまったのか、

それとも…


「右大臣殿!

いかがなされた!」


心配する雅信の声が響くが、

兼家の意識は遠のいていく。


義懐が見下ろしている。


藤原顕光が


「何をしておる!」


と叫んだ。




兼家、倒れる。


その報告を義懐から聞いた

花山天皇はほくそ笑んだ。


「右大臣め、いい気味じゃ。

これで目の上のたんこぶが

いなくなった」


「お上、これは天の助けに

ございます」


義懐はニヤリと笑う。


為時は忌々しそうに

そんな義懐を見る。


帝は


「天の助け、天の助け…天の助け!」


と嬉しそうに叫んだ。


さすがに乳母子の惟成が


「お上はどうかそのような

お心をお見せになりませぬように」


と諭した。


いくら義懐や惟成を

重用しているといっても

帝である以上は、

表面上は右大臣である

兼家のことも心配している、

といった姿だけは

演じねばならない。


帝は落ち着くが


「分かっておる。

きっと忯子が助けてくれたのじゃ…。

忯子…」


と、また沈み込んでしまった。



兼家の容態はよくならず、

医師が訪ねてきている。


「どうだ?」


道隆が心配そうに聞いた。


「毒を盛られた様子はありませぬが…

このままではお命は危ういかと」


道長も突然のことに、

固まっている。


「何か手だてはないのか?」


すがるように道隆は尋ねた。


「まずは皆様で魂が去らぬよう、

呼び返されるがよろしゅう

ございましょう」


「父上」


道隆、道兼、そして道長が

次々に声をかける。


「お着きでございます」


振り向くとやってきたのは

娘である詮子。


「詮子様もどうぞお声がけを」


兄である道隆が促すが、

詮子は罰が当たったのだ、

とばかりに冷たく見下ろしていた。




兼家が倒れたいま、

当座は道隆が仕切るしかない。


「これより我が家において

父上の代理は私が務める。

よいな」


道兼と道長は


「は…」


と頭を下げる。


詮子は


「兄上はあの義懐に追い越されて

まだ参議にもなっておられませぬから

今、父上に死なれたら困りますわね」


と冷めた声で言った。


道長が詮子を見つめる。


道隆は反撃とばかりに


「それは詮子様とて同じで

ございましょう。

父上を失えば東宮様も

後ろ盾を失います。

帝や義懐一派が増長すれば

ご即位とて危うくなりかねません」


と告げる。


「今は我ら4人、

力を合わせる時にございます」


道兼も流石に冷静に言い

道長も異論なし、と

頭を下げた。


が、詮子には響かない。


「私にも東宮にも

源の人々がついておるゆえ

父上に万が一のことがあっても

大事はない。

左大臣、源雅信は東宮と私に

忠誠を誓っておる」


道隆がかつて詮子が

奥の手がある、と

言っていたことを思い出し

あ然とする。


「左大臣家に道長が

婿入りする話も進めようと

思っていたところなの」


いち早く兼家こそが

その手を使おうとしていたことは

もちろん詮子は知らない。


「ねっ、道長」


「そんな話は…」


道長は詮子がそこまで本気で

言っていたとは思っていなかった。


「兄上方も源と手を組む覚悟を

お決めください。

さすればこの場はしのげましょう。

左大臣の動きをいま少し見てから

文を書きます。

その時は道長、あなたが

土御門殿に届けなさい」


詮子はそれだけ言うと去った。


いまは政争の話してなど

しているときではない…

道隆は


「まずは父上のご回復だ。

晴明を呼べ」


と命じた。



安倍晴明がやってくる。


「遅いではないか、晴明」


晴明は


「うわあ…障気が…障気が

強すぎる。

これでは何も見えない、

ご退席を。

右大臣様と私だけにしてください」


と兼家に近づく。


「早う!」


晴明が強く言うと道隆ら

息子たちも


「下がろう」


と部屋を出ていった。


晴明は早速祈祷を始める…



僧たちも呼ばれ、

読経も始まっている。


道長らも僧とともに

読経をあげる…



屋敷の外では晴明が、

陰陽道による祈祷を

同時に行っていた。



読経が続く中、

女が突然、倒れ伏した。


「お前は誰だ」


と僧が女に尋ねる。


「うう…」


女は奇声をあげる。


「何のためにここに

降りてきたのだ」


何かが乗り移った、

ということなのだろう。


「返せ」


「何を返してほしい」


「命を返せ…子を…

子を返せ!子を…」


取り憑かれたように

女は叫ぶ。


「お前の名は!」


「よしこ」


その名前に道隆、道兼…

そして道長も愕然とする。


「弘徽殿の女御様か」


「うう…」


女はうめくと暴れ出す。


「何をなさいます」


止めに入った者が、

弾き飛ばされた。


「返せ!返せ!返せ!」


女は兼家の体に飛びつく。


慌てて道長が引き離しにかかるが、

道長も押し倒されてしまう。


「返せ!返せ!返せ!返せ!

返せ!返せ!」


道長の首が締められるが、

突然のことに道兼も道隆も

動くこともできない。



外では中の異変に気付いたのか

安倍晴明が指を鳴らした。



すると女は意識をなくし、

倒れた。


解放された道長は荒い息をつく。



「亡き忯子様の霊が

父上に取り憑かれたのは

なぜでございましょうか」


兄弟だけになると、

道長は兄に尋ねた。


道隆は狼狽え、

道兼も道長を意味ありげに

みつめる。


「兄上方、何かご存知なのでは…」


「父上にそんなつもりはなかったのだ」


兼家をかばうように

道隆が言った。


「おなかのお子さえ

流れればよかったのだ。

そのことを晴明に命じたら

忯子様までお亡くなりに

なってしまった…」


晴明が悪いのだ、

というふうに道隆は述べた。


「恐ろしいことだ」


ふるえる道隆を


「しっかりなさいませ、兄上!」


と道兼が励ます。


道長はようやく理解した…


また、父の兼家が恐ろしいことを

企んだ…これはその報いなのだ、と。



「それでどうだったのだ?

東三条殿での祈祷は」


花山天皇も気になっている。


答えたのは安倍晴明だ。


「亡き忯子様の霊が

右大臣様に取り憑いておりました」


「なんと…」


ということは…


「それはまさか忯子が

成仏できていないということか?」


「恐れながらそのように

ございます」


「何故、成仏できぬのじゃ」


「恐らくは右大臣様を

恨むあまり…」


「右大臣が忯子様を呪詛し

お命を奪ったということか」


義懐が尋ねる。


張本人は晴明なのだが、

晴明は平然と


「それは分かりませぬ」


と述べた。


が、帝はそれどころではない。


愛した妻が成仏すら

出来ていない。


帝にとってはそれこそが

一番つらいことだった。


「かわいそうな忯子…」


帝は声をあげて泣き出した。


「お上」


「右大臣こそ死ねばよい」


帝は泣きながら言った。


「死ね!死ね、右大臣!」


「そのようなお言葉は

忯子様をこの世にますます

お引き止めすることになります」


晴明は冷静に伝えた。


「許せ…忯子…」


帝は涙に暮れた…




「右大臣様と手を切っておいて

よかったですね、父上」


まひろの家でも、

右大臣兼家が倒れたことで

惟規が嬉しそうに

父を褒めていた。


さすがに人が倒れたのに

そんなに喜ぶものではない…

まひろが弟を見る。


「そういうことを申すでない。

右大臣様には世話にもなった」


父の為時もそれを咎める。


道兼とは嫌な因縁もあったし

苦渋の選択を強いられたが、

少なくとも右大臣兼家は

為時を引き上げてくれたのだ。


「あの時、右大臣様に

東宮様の漢学指南役を

頂かなければお前たちだって

飢え死にしていたやも

しれぬのだぞ」


それも嘘ではないのだ。


まひろはうつむく。


「飢え死になんて…

そんな大げさでしょう」


惟規は明るく言う。


「惟規はまだ幼すぎて

母上のご苦労も父上のご苦労も

知らなかったのよ」


だんだん父のことを

理解してきたまひろは

そう言って弟を諭した。


「知らない方がよいでしょう、

苦労なんて」


「はあ…」


どこまでも明るい弟に

まひろはため息をついた。


「右大臣様は恐ろしいところも

あったが何より、

政の名手であった。

関白様、左大臣様では

そうはいかぬ」


その点については、

あの実資も認めていた

兼家の良さでもある。


「義懐様とて同じだ」


為時は義懐を好きではないし

兼家のほうが実力があることは

よく理解している。


「義懐様は帝のご寵愛を

いいことに横暴が過ぎる。

右大臣様を追い詰めたのは

義懐様だ」


「同情しても右大臣様は

倒れちゃったんだから

権中納言の義懐様と

仲よくした方がいいですよ。

そう思うだろ、姉上も」


まひろはそもそも、

父はそういうことに

向いていないのだ、と

知っている。


「父上はこんな争いに

巻き込まれたくないの。

静かに学問を究め

学問で身を立てたいだけなのよ」


「学問…」


さっぱりだ、というふうに

惟規はため息をつく。


「何で俺は学問が嫌いなのかな…。

父上も姉上も学問好きなのに。

はい」


と、まひろに巻物を渡す。


「本当に俺、父上の子なのかな?」


とんでもない捨て台詞を残し

惟規は退室した。


さすがに為時も


「はあ…」


と呆れる。


「明日からは宮中の書庫の

整理を主たる仕事といたそう」


「内裏のことは分かりませぬが

政での争いは父上には

似合いません」


まひろは父を見つめると、

そう言ってやった。


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とりあえず小麻呂は

無事であった。


自ら戻ったのか、

あのあとまひろが思い出して

慌てて探しに戻ったのかは

わからないが…



赤染衛門と姫たちの

距離感がとても良い。


男の話で盛り上がっていると

注意したりもするものの、

自分は直秀に惹かれた…

みたいな話を語るときには

とてもイキイキしている。


好かれている女子校の

先生といった感じだ。



道長の弟のふりをしながら

東三条殿の様子を探る直秀は

後半で盗みに入り、

捕まってしまうのだが…


屋敷のことを知りたがる直秀に


「なぜそのようなことを聞く」


「今日の直秀は別人のようだ

(化けるのが上手いな)」


であったり、


「矢傷に見えたが?」


と道長なりに俺はもう、

お前が盗賊だと気づいているから

盗みになんか入るなよ、と

釘を刺しているのがわかる。


もっとストレートに

伝えてあげていれば…とも

思うものの、

さすがにそれを公的に

口にしてしまうのは


「藤原家の息子がわざと見逃した」


となってしまうから

そうもいかなかったのだろう。



道長の左大臣家への

婿入り話が兼家から

提案されていたが、

従五位下、右兵衛権佐だぞ、と

左大臣雅信は嫌がっていた。


そもそもそれは表向きの

理由であって雅信は

兼家が苦手だしその兼家の娘、

詮子からも脅迫のような

やり方で味方になるように

迫られているから、

気が向かないのは当然とはいえる。


右兵衛権佐といえば


「佐殿」


すけどの、つまりは後の

源頼朝と同じ官位である。


東国ではこの右兵衛権佐でも、

非常に尊い存在だったのだが

兼家らが行っているのは、

貴族の頂点争い…


左大臣の娘の姫に、

右兵衛権佐では…というのも

わからないでもない。


右大臣の兼家自身が、

雅信の左大臣よりも

ひとつ下の官位でもある。


が、この兼家、雅信、

そして関白の頼忠は

こうして競いつつも

お互いに認めているのは

偽りでもなく…


兼家が帝に直訴する!と

立ち上がったときには

雅信も頼忠も共に行こうと

していた。


このあたりは化かし合い

だけではない、

3人の絆も感じられて

良いシーンだった。



が、このときに兼家は

倒れてしまうわけだが。


僧侶による読経と、

安倍晴明による神への

祈祷が同時に行われている、

のはおかしな気もするかも

しれないが、

安倍晴明は陰陽道による

祈祷を行っているので

厳密には神道とはまた違う。


そもそも、

兼家が本当に倒れたのかどうか?


これがよくわからない。


というのも後半には、

これを期に道兼が為時へと

接近をはかるようになる。


安倍晴明は兼家のところに

やってきたときに


「障気がひどいから

2人にさせろ」


と道長らを遠ざけて

兼家と2人きりになっている。


もしも兼家が演技をしていて

晴明と示し合わせるとすれば

このときに打ち合わせが

出来たはずだ。


そして、花山天皇の妻は

成仏していない、

というストーリーを作り

それにより帝のことを

精神的に追い詰める。


それをしながら、

帝から義懐を引き離すべく、

道兼を接近させるために

帝から目をかけられているうえ

優しく政治に疎い為時を

利用する形で、

道兼と帝を結ぶための

架け橋にする…


安倍晴明の陰陽道、

というのが本当の

呪詛や祈祷ではなくて

一種のマジックのような

ものであるのなら、

そしてそのことに兼家も

気づいているのなら、

2人で結託していても

おかしくはない。


このあたりは来週を観ないと

わからないところではあるが、

兼家と晴明が2人きりになる、

つまり打ち合わせをする時間は

存在していた、

というのはポイントになるだろう。



前半はやはり

直秀からの告白…というか


「一緒に来ないか」


というシーンが、

少女マンガの王道チックで

あぁ、いいなぁと男の俺でも

思わされてしまった。


突然、そんなふうに言われて

まんざらでもないまひろ、

でも直秀のほうが


「行かねえよな」


と身を引いてしまうところも

含めてのドキドキ感よ…



やはり道長もかっこいいが、

直秀もいいなと思わされた。



しかし…直秀の年齢設定は

どれくらいなんだろうか?


道長の弟、で通るということは

道長より少し年下。


まひろと同世代なのか?


まひろと三郎が幼い頃に

見ていた散楽は直秀の

親の世代が演じていた?


九州にまで旅をしていた、

となるとかなりの距離を

旅していたことも伝わってくるし、

昔から都にいたように見えて

実は都にきたり去ったりを

繰り返していたのか?


直秀の設定のことが

もう少し知りたいとは思いつつ、

あれは謎だからこそいい、

という面もあるのだろう。