光る君へ第7回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第7話「おかしきことこそ」前編



帝が亡くなった妻を呼ぶ声が

夜中にこだましている。


寛和元(985)年。


この夜、花山天皇が

ただ一人心から愛した忯子が

おなかの子と共に世を去った。


死は汚れと考えられていた

この時代、

天皇はじめ貴族たちが

遺体に近づくことは

ゆるされなかった。


奔放に振る舞っていた

花山天皇の忯子への愛は

本物であり、

帝はひたすら悲しみに

暮れている…。



私は道長様から

遠ざからねばならない。


そのためには

何かをしなければ…


まひろは月を見上げながら

そう考えていた。



その頃、直秀ら盗みに入った

盗賊団は奪ってきた

高価な着物などを路上に

置いていた。


指笛を吹くと


「お天道様のお恵みだ!」


貧しい民らが集まってくる。


直秀らは決して、

自分たちのために盗みを

働いていたのではない。


義賊であった…。



道長は浮かない顔で

うなだれている。


宗近が心配する。


「いかがされた?」


「人を射たのは初めてゆえ…」


「イノシシや鳥は

射たことがおありでしたよね」


「狩りは幾度も行った」


宗近は事もなげに


「同じことではございませぬか。

相手は盗賊。

イノシシや鳥よりも下にございます」


と言う。


しかし道長は己の手を見つめる。


「ブスッと刺さった感じがした」


「心の臓を射ぬいておれば

今頃は死んでおりましょう。

お見事でござった」


褒められても道長には

嬉しいとは思えなかった。


己の放った矢が、

人を傷つけてしまった。


道長は気づいていないが、

その相手はまひろとも

縁のある直秀である。



直秀は傷を洗いながら

うめきをあげている。


輔保が


「熱が出てきたな」


と心配している。


磯丸は


「まさか…毒矢じゃねえよな?」


と怯えたが


「あいつらは貴族だ。

毒矢は使わない」


百成が


「しっかりしろよ」


と傷を抑えると

直秀はまた悲鳴をあげた。



自分に縁のある道長と

直秀が苦しみに

襲われているなどとは知らず


「おかしきことこそ…」


と、まひろは考えこんでいる。


絵師も言っていた。


「おかしき者にこそ

魂は宿る」


直秀は言った。


「笑ってつらさを忘れたくて

辻に集まるんだ。

下々の世界では

おかしきことこそ

めでたけれ」


民らの笑顔が、浮かんだ。


まひろは絵師が描いていた

動物の絵を思い出す。


まひろの中に、とある

話が浮かんできた。



藤原兼家は、

安倍晴明を呼び出し

叱責していた。


「わびることはないのか?」


「お褒めいただくことは

あると存じますが」


晴明には悪びれた様子はない。


「腹の子を呪詛せよとは言うたが

女御様のお命まで奪えとは

言うてはおらぬ。

やり過ぎだ」


さすがの兼家もまさか、

母親でもあり帝の后の

命まで落とすことになるとは

思っていなかったのである。


「さようでございましょうか?

腹の子が死すれば皇子の誕生はなくなり

女御様もろともに死すれば

帝は失意のあまり政を投げ出されるか

あるいは再び女にうつつを

抜かされるか…

どちらにしても右大臣様には

吉と出ましょう」


晴明はどう転んでも

兼家の思い通りなのだから

良いではないか、と

開き直っている。


「この国にとっても

吉兆にございます」


「長い言い訳じゃのう」


「いずれお分かりになると

存じますが

私を侮れば右大臣様ご一族とて

危うくなります」


晴明は脅すように言った。


「ほう」


宿直を終えて廊下を

歩いていた道長にも

晴明の声が聴こえてきた。


「政をなすは人。

安倍晴明の仕事は

政をなす人の命運をも

操ります」


兼家は脅しには屈しない、

とばかりに反論する。


「お前の仕事は

ただ財のためだ。

そんなことは前から

お見通しだわ。

褒美が足りないなら

そう申せ。

もったいぶりおって」


兼家が腹立たしげに言い捨て、

退室しようとすると

ちょうど道長と出くわした。


「宿直であったのか?」


「はっ」


「ご苦労であったな」


去ろうとして兼家は

立ち止まる。


「ああ、そうじゃ。

盗賊と渡り合ったそうだな。

お前も頼もしくなったのう」


「頼もしくなぞありませぬ」


謙遜ではなく道長は、

盗賊に矢を当ててしまったことに

胸を痛めている。


「されど人はあやめるなよ」


こういうところで、

兼家と道長には似ている

部分があった。


「人の命を操り奪うは

卑しき者のすることだ」


「は…」


兼家は部屋の中の安倍晴明に

聴こえるように言っている。


立ち去る兼家。


入れ替わるように

晴明が道長の前に現れる。


「父が失礼なことを

言うたようですな」


聡い道長は父が晴明への

嫌味を込めて言ったことくらい

わかってはいる。


「お送りしましょう」


晴明は道長を見つめると


「道長様、私はお父上との

こういうやり取りが

楽しくてならないのです」


と驚くべきことを言った。


道長は苦笑する。


「これからも父をよろしく

頼みます」


心を測るように晴明は

道長をまた見つめる。


「お見送りは要りませぬ」



その夜…


妾である寧子のところで

寝ていた兼家は悪夢に

うなされていた。


「うう…ああっ!

寧子…寧子、寧子」


兼家は寝ていた寧子を起こす。


「ん…いかがされました?」


「恐ろしい夢を見た。

呪われている。

俺は院にも帝にも、

死んだ女御にも呪われている」


怯えた子供のように

寧子に抱きつく。


「大丈夫でございますよ

殿は何にも負けませぬ。

大丈夫、大丈夫」


と、寧子は兼家の背を

優しく叩く。


「大丈夫か?

俺はまことに大丈夫か?」


「まことに大丈夫でございます」


「ああ、怖いよ〜」


決して息子や家族の前では見せない、

弱い兼家の姿がそこにはあった。


「殿は大丈夫でございますから。

道綱のことお願いしますよ」


寧子はしたたかだ。


兼家をあやしながら、

息子のことを売り込む。


「ん?」


「道綱、道綱…大丈夫、大丈夫」


「怖い夢と道綱に何の関わりが

あるのだ?」


「よいではございませぬか。

殿のお子ですよ、道綱も」


兼家の顔を両手ではさみ、

言い聞かせる寧子。


味方は多いほうが良いのだ、

あなたの子供はここにも

いるのだ、と植え付ける。


「うん…」


「大丈夫、大丈夫…」



安倍晴明の恐ろしさというのは

まさにこれであった。


なぜ女御様まで殺したのだ、と

晴明を叱る兼家は、

自分の命令によって

人の命を奪ってしまったと

怯えているからこそ

怒っていたのだ。


なにせこの時代は、

兼家が道長にも言ったように

たとえ盗賊であったとしても

懲らしめるのはともかく

命を奪うのはよくない、

とされていた。


むろん、陰陽師である

安倍晴明のほうがむしろ

人の命を司っているぶん

そんなことは迷信だ、

くらいに感じている。


だからこそ、

人を呪わば穴二つで

晴明にひどい命令を

すればするほどに、

兼家のほうが心を蝕まれる。


そうやって権力者の

道徳心や後悔につけ込み

裏から支配してのし上がる…


それが晴明の怖さだった。


次に命令するときには、

兼家は晴明がどこまでやるかを

非常に恐れるようになるだろう。


そのやりとりが楽しいのだ…


道長はもしかしたら、

そんな晴明のことも

わかっているからこそ

苦笑いしたのかもしれない。


兼家は、確実に怯えていた。



「百、もう一回…上げろ、

上げろ、上げろ!」


散楽の者たちが稽古をしている。


腕を痛めている直秀は

それを眺めている。


「あら、またあんたか」


現れたのはまひろだ。


腕を怪我している直秀に気づき


「どうしたの?」


と心配する。


「けがしたの?」


「猿だって木から落ちるんだ」


まさか盗みに入って、

あの道長に射られたとは

言えない。


「それでしょげているのね」


おかしそうに言うまひろに


「俺のことはいい」


と直秀はぶっきらぼうに答えた。


「笑える話、考えてきたの。

聞いてくれる?」


まひろは皆に声をかけた。


「誰も頼んでねえって

言ったろ」


「キツネにたまされる

猿たちのお話よ」


皆は興味深そうにまひろを見た。


「猿の顔をしているのは

毎度おなじみ右大臣家の一族。

神のふりをしているキツネに

福をくれとすり寄っているの」



まひろの話は面白かったらしい。


「猿たち、キツネにすり寄る!」


「はい、すり寄る、

さあ福をくれ…そうそう、

そうそう…」


皆は話を劇に落とし込むべく

練習を始めた。



ついにまひろ発案の

散楽が民に披露される。


「そんなにも福が欲しいか?」


キツネ役は直秀だ。


「福を下さい!何でもします!

キキ〜ッ!」


「何でもするのだな?」


「いたしまする!

キキ〜ッ!」


「くるりと回れ、

もっと大きく、もっと見事に!」


猿真似をしながら、

得意の曲芸を見せる劇に

観客は喜んでいる。


さんざん猿をあおったあと


「お前たちに福はやれん」


と告げるキツネに、


「キキ〜ッ!」


と猿は泣き出す。


「あれを頭にのせよ」


「あれとは?」


「そこに馬が落としたものが

あるであろう」


糞のことだ。


猿たちは飛び退る。


「唐の国ではあれを頭にのせると

皇帝にも劣らぬ力を得ると

いわれておる。

運が上がるぞ」


「ウンを上げろ!」


運、とウン◯をかけた

馬鹿馬鹿しい話だが

猿たちは糞をあさりだした。


頭にそれを乗せると

民は爆笑した。


直秀は踊りながら

うまくいった、と

ばかりにまひろを見て笑う。


まひろも嬉しそうだ。


「くるりと回れ」


「キキ〜ッ!」


「もっと大きく、

もっと見事に!」


民は老いも若きも、

子供たちも笑顔になっている。



そんな民たちとは対照的に

内裏は陰鬱である。


「この件は右大臣様が

真っ先に異を唱えるでしょうが

ここは私にお任せください」


と義懐が帝に言うと、

帝は寝そべったまま


「任せる」


と短く答えた。


「右大臣様の横暴は

何としても阻んでみせます。

ではこれより陣定に行ってまいります」


そんなやりとりを

為時は複雑な顔で聞いている。


「為時殿、あとはお頼み申す」


「は…」


義懐が出ていくと帝は


「為時、足がだるい。

さすれ」


と足を投げ出した。


「恐れながらお上のお体に

触れることは…」


「朕が許す」


だが真面目な為時は動かない。


帝は寂しそうに


「もうよい。臆病者め…」


と座り直した。


帝は子供の頃から

自分を見放さずに

ついてきてくれた為時に

親しみを感じているからこそ

くだけた態度を取っているのだが

そこで恐縮してしまうのが

為時という人だ。


「お許しくださいませ」


「お前、義懐が嫌いだろ」


「そのようなことは

ございませぬが…

何もかも義懐殿に

お任せになるのは

いかがなものかとは存じます」


帝は子供のように

寂しそうに言った。


「だって信用できるのは

お前とあいつしかいないのだから。

しかたがないではないか」


信用できる、との言葉に

為時の心が痛む。


「ほかの者は皆、

右大臣につながっておる」


為時もそうなのだが、

帝は気づいていない…


それだけに為時は、

より苦しい顔になる。


「朕を追い払えば

右大臣の孫が即位する。

そうなれば右大臣は摂政だ。

朕が右大臣でも

そうするであろう」


帝は落ち着かないように

歩きながら述べた。


「忯子とて右大臣が

呪詛したのやもしれぬ」


帝は奔放だが決して、

愚か者ではない。


どこかでそれを感じとっている。


「恐れながら東宮様は

まだ幼く今は即位されることを

右大臣様がお望みとは

思えませぬ」


為時は諭すように言った。


「帝のお気持ち、そして

皆が望むことを右大臣様はしかと

お分かりでございます。

義懐様よりもずっと」


「やっぱり義懐が嫌いなんだ。

ああ…

忯子に会いたいな…」


気が抜けたように、

帝はまた寝そべってしまう。


「忯子…」


妻を亡くした帝の悲しみは

皆が考える以上に深く、

信用できる者の少なさにも

苦しんでいる。


人の好い為時は、

そんな帝を見ると

より胸を痛めてしまうのだった。



左大臣源雅信が、


「帝が亡き忯子様に

皇后の称号を贈りたいとの

仰せである」


と議題を述べる。


「は…」


「下位の者より順に

意見を述べよ」


藤原時光が恐る恐る


「先例のないことで

考えられませぬ」


と反対した。


源伊陟も


「先例なきはよろしくない

ことだと存じます」


と同意する。


義懐が反論した。


「帝の亡き母君、

懐子様にも皇太后が

贈られた先例はあります」


雅信が咳払いをする。


藤原佐理は


「ただいまの義懐殿の

ご意見は皇太后様のこと。

皇后様ではございませぬ」


と指摘する。


「円融院の后、

遵子様は中宮にあらせられる。

ただいま皇后の座には

どなたもおられない」


義懐がまた反論すると

皆が困ったように顔を合わせた。


「帝があれほどまでに

ご寵愛された忯子様に

皇后を贈られて何がいけないのか。

大納言、為光様。

大納言様は忯子様のお父上、

帝のお心遣い、

ありがたいとは思いませぬか」


為光は、忯子の父、

つまり道長の友人である

斉信の父でもある。


「意見は下位の者から

順番に述べるものに

ございます」


と、為光はじろりと睨んだ。


為光からしてみたら、

帝の好意とはいえ

振る舞い方によっては

他の貴族たちの反感を、買う。


ゆえに慎重であった。


「ありえません」


と、藤原公季が述べると

源忠清も


「同じく」


と答える。


義懐は譲らない。


「帝のお心です。

亡き忯子様に皇后の称号を」


藤原顕光は正直に


「分かりません」


と答え、文範はやはり


「ありえません」


と意見した。


「残念ながら難しいと存じます」


雅信は兼家を見た。


兼家は淡々と


「先例が見つかれば

よろしいかと」


と答える。


単純に反対するよりは

先例さえあれば良い、

あれば、だが…


という上手い答え方とも言える。



藤原実資は蹴鞠の練習をしながら


「帝はいよいよおかしくおわす。

義懐ごときを重用されるとは。

あいつは去年、蔵人頭に

なったばかりだぞ。

それがいきなり参議だ。

さきの帝のときより、

蔵人頭であったわしを

追い越して参議になるなぞ

あってはならぬ!」


と愚痴をこぼしている。


蹴鞠は得意ではないのか、

なかなか上手くいかない。


妻の桐子は聞き流しながら


「毎日毎日、くどいわよ、

あなた」


と、あっさり返した。


「お前は無念ではないのか」


「無念だけど、くどい」


「参議の枠はいっぱいだったのだぞ。

それなのに帝は無理やり

枠を増やして義懐を入れた。

帝だけではないぞ。

この除目に異を唱えられなかった

右大臣様もおかしい!」


おそらく兼家のことだから

無理に反対するよりも

無難に相手を立てたのだろう。


なにせ相手は帝、なのだ。


それに兼家には、

忯子の命をもしかしたら

自分が奪ってしまったのかも…


という負い目もあったのだろう。


「右大臣様ははっきり言って

好きではないが

言うべきことはきっぱり

仰せになる筋の通ったお方。

そこは認めておったのに

こたびはどうした!」

  

桐子に問いかけるような

夫に呆れつつ


「あなたそれ私に言わないで

日記に書きなさいよ。

もう聞き飽きたから」


とあっさりと返す。


「日記には書かぬ!

書くにも値しない。

くだらん!」


実資は鞠を蹴った。



右大臣家でも、

義懐の参議入りは

話題にはなっている。


とくに道兼は不満を

感じていた。


「義懐ごときが兄上を

飛び越えて参議になるなど

腹立たしいことに

ございます」


しかし道隆はのんびり答える。


「そのことは気にしておらぬ。

いずれ父上の世は来る。

それはすなわち私たちの世と

いうことだ」


「それはそうでございますが…」


「それよりお前、

父上に無理をさせられて

疲れておらぬか?」


道兼は思いがけない

兄の優しい言葉に驚く。


「お前は気が回る。

その分、父上にいいように

使われてしまう。

そうではないか?」


さきの帝に毒を盛ったことも

知っているのに優しい言葉で

労ってくれる兄に、

道兼は泣きそうになる…


道隆は酒を注いでやりながら


「わしは分かっておるゆえ

お前を置いてはゆかぬ」


と言った。


その言葉に嗚咽を漏らす

弟の肩を道隆は抱いてやった。


貴子はそれを見ると、

邪魔をしてはならぬと

黙って去った。



道長らは壺の中に

矢を投げ入れて遊んでいる。


斉信が


「妹の忯子が死んだのは

あんな帝のところに

入内したからだ」


と悔しそうに言った。


結局、義懐に懐柔されることなく

むしろ道長の兄である

道隆に将来性を感じた

若者たちは義懐、ひいては

帝への興味も失いつつあった。


「父も俺も不承知だったのに

義懐がしつこく屋敷に来て

帝の望みをかなえてくれと

頭を下げるゆえ、

根負けしてしまったのだ。

あの時止めておけば

あんな若さで死ぬことはなかった…」


陣定のときに父、

為光が義懐に対して

冷淡に見えたのも

そのためかもしれない。


公任は


「身まかられる前に

偉くしてもらっておけば

よかったな」


と率直に言ったが

斉信は


「もうそんなことどうでもよい」


とこたえる。


さすがに傷つける発言だったか、と

公任は


「すまぬ」


と詫びる。


道長は


「俺は入内は決して女子を

幸せにはせぬと信じている」


と述べた。


道長の姉の詮子も大変な

思いをしたのだから当然だろう。


行成が


「さようでございますな」


と答えた。


斉信が迷いを振り切るように


「しけた話ばかりしていても

忯子は浮かばれぬ。

気晴らしに打毬でもやるか」


と明るく言った。



百舌彦に馬を引かれる道長。


百舌彦は遠慮がちに


「随分、前のことで

ございますけどもあの…

ず〜っと気になってたんですけど」


「何だ?」


「はい。

まひろ様にお届けした文、

あれは要するに…

駄目だったんでございますか?」


返事が来なかったのだから

普通はそうだ。


道長は黙る。


「お答えになりたくなければ

よろしゅうございます」


「随分、昔のことだな」


「あの…あちらの従者が

頼りなげでして

きちんと渡ってないかも

しれぬと思い…

今更でございますが、

確かめてまいりましょうか?」


百舌彦の心配ももっともで、

乙丸は頼りないし

道長とまひろの仲良さそうな

様子を見ていた百舌彦から

してみたら、

何の進展もないのは不思議だろう。


しかし道長は


「もうよい」


と言った。


「はい」


「振られた!」


胸を張って言い切る道長。


「右大臣家の若君を

どういう気持ちで振るので

ございましょうねえ…」


「そうだな〜」


よくわからぬ、といった

感じで道長は腕を組んだ。


そんな道すがら

藤原家の者と思われる

棒を持った者たちが

辻へと駆けていく。



屋敷に戻った道長。


「お帰りなさいませ」


「武者たちはどこに行ったのか?」


先程の物騒な集団のことを尋ねる。


「藤原への中傷が過ぎる

散楽があるそうで怒った者たち…」


道長は珍しく声を荒げ叱った。


「なぜ止めないのだ!」


民たちはそうやって、

自分たちを笑い者にすることで

なんとか日々の笑いや

活力を得ているだけなのに。


幼い頃から散楽を自分も

楽しんで観てきた道長には

それがよくわかっている。


道長は武者たちの横暴を

止めるべく急いで街へと駆けた。


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盗賊を矢で射ってしまったことに

胸を痛めていた道長。


同僚である武官の宗近は、

狩りで動物を殺すことは

あるのだから、

盗賊などはそういう獣以下、

気にしなくていいと考えている。


ところが父の兼家は、

盗賊相手であっても

人はあやめるなよ、と

釘を刺していた。


これは安倍晴明への

当てつけも当然あったとは

思うのだが…


人を殺してしまった

道兼への扱いであったり

兼家自身が自分の命令で

忯子を殺してしまったかも

しれないと怯えていることを

考えると本気で人殺しだけは

してはならない、と

一線を引いているのはわかる。


この時代の上級貴族とは

そういうものであったから

それを気にしていない宗近は

おそらくは道長よりも

身分的に劣るのか、

やがて武家になっていくような

家柄なのかもしれない。


安倍晴明の立ち回り方は

実に巧みである。


時代的には呪詛というものが

信じられていた時代なのだが

それを明確に真実として描くと

それこそ映画の陰陽師のように

SFファンタジーになってしまう。


だから具体的な呪詛の効果が

あるかないかということは

ドラマではぼかしている。


ただし起きた「事実」としては、

それが呪詛の効果なのか、

自然な流れなのかはわからないが

おなかの子供ともども、

帝が愛した忯子までもが

死んでしまった。


この「事実」を安倍晴明は

最大限に利用してくる。


あなたが命令するから

こうなってしまった、

これは兼家様、

あなたに責任があるのだ、と。


もちろん人殺しを汚れたこと、

と考えている兼家は

それを否定する、

そんな命令はしてないだろう、

というふうに。


しかし晴明はそこで

話を微妙にズラしてくる。


でも結局、得をするのは

あなたではないか、

人が死んで良い思いをしたのは

あなたなのだ。


それを恐ろしいと思うなら、

私のことを簡単に利用しようと思うな、

本当に支配しているのは、

私なんだ…と。


非常に恐ろしい方法で、

人の持つ罪悪感に付け入り

相手に利用されているように

見せかけながら、

晴明のほうが相手のことを

利用しているのがわかる。


兼家は晴明の力を

利用すればするほどに

実は晴明に弱みを握られて

罪悪感を募らせていき、

それが募れば募るほどに

おそらく何かどこかで

間違いを犯すだろう。


そのときはまた


「悪いことをしたからだ」


「人を呪ってしまったからだ」


と感じるはずで、

古来から言われてきた

呪いというものの正体は

こういうところにこそ

あるのだろう。


逆に言うなら人を殺しても

平然としていられるならば

呪われることなどない、

とも言えるのだが。


あの、たくさんの人を殺した

鎌倉殿の13人の源頼朝。


あの冷酷な頼朝ですらも

報復や呪いというのは

非常に恐れており、

だから信心は厚かったという。


これに関しては戦国時代も

同様であって、

多くの武将が寺や神社を

大切にしたり、

晩年、出家したりするのは

いくさでたくさんの命を

奪ってきたという、

自責の念くらいはあるから、

ともいえる。


平安時代の上級貴族は

さらにそうした思いを

強く持っていたからこそ、

どんなに権力争いで

相手を蹴落としたとしても

命を奪うようなところまでは

いってはいけない、

という自分たちなりの

ルールを持っていた。



亡くなった忯子を皇后にしたい、

という帝の意向に対して

ただ反対、と言うのではなく


「先例があれば良いのではないか」


と多少の妥協を見せていたり、

義懐の参議入りに反対しなかった、

というのは間違いなく、

忯子を殺すきっかけになって

しまったかもしれない、という

罪悪感と自責の念からだろう。



兼家の妾である寧子が書いた

蜻蛉日記に関して

まひろや赤染衛門は

身分の低い私が身分の高い方に

愛された、という

自慢話の面があるかもと

評していたのだが…


兼家は嫡妻である時姫の子ら、

つまり道長たちの前では

弱気なところは見せない。


が、忯子を殺してしまった、

という恐怖に怯える弱い姿を

寧子には見せている。


あれはたしかに

寧子の前では本当の自分を

さらけ出してくれている、

とも、言えるし

若い頃からそうだったなら

寧子が自分こそが兼家に

愛されているのだ、と

感じてもおかしくはないだろう。


が、それをうまく利用して

道綱、という兼家との間にできた

我が子を売り込むところは

さすがと言えるだろう。


この時代は男がたくさんの

女子を囲うようなことを

してはいたわけなのだが、

女の方も決して好きなように

扱われていたわけではない、

ということがわかる

面白いシーンだった。



グチグチと述べていた

実資に関しては

これまでの描写で、

男らしくかっこいい場面も

あったのだが、

やはり妻の桐子の前ではあんな感じで

本当の姿をさらけ出している、

というふうなんだろう。


黒いからきっと、

蹴鞠の稽古もさんざんして

達人なのだろうなと思ったら、

ただ黒いだけで蹴鞠は

下手だったw


愚痴がくどいから日記に書きなさい、

と妻にたしなめれていたが、

実際、実資は小右記という

60巻以上になる日記を

書き残しているのでそこは

分かる人には分かる、

という小ネタだったのだろう。



それにしても、

道隆という人もやはり

怖い人だ。


道兼は父からは汚れ役を

押し付けられてきたし、

あの甘ちゃんで馬鹿にしてきた

弟の道長からも、

父と同じように兄上には

汚れ役になってもらう、

とまで言われてしまった。


俺達の影は皆同じほうを

向いている、

と道長に指摘してやったことで

兄としての威厳だけは保ち、

強がったものの、

内心は悲しかったに違いない。


そういう道兼が持っている

心の弱さを道隆はがっちりと、

優しく掴んでくる。


これが単純に兄としての

優しさならば本当に

素晴らしい兄貴なのだが…


漢詩の会で道長の友人たちを

味方につけたように、

おそらく道隆は道隆で

父親とは別の自分だけの

勢力を作りたいはずで…


兼家のような剛腕ではなく、

優しく柔らかく、

相手を支配していく感じにも

思えるために、

仮にそうであるなら

結局は道兼は誰からも

利用されてしまう、

哀れな人でもあるだろう。



前半で印象に残ったのは

やはり花山天皇である。


忯子に対しての愛情は

本当に深いものがあり…


性的な嗜好としては

拘束プレーなどもしてはいたものの、

この帝自身が味方は、

義懐と為時しかいないという

孤独を抱えていた中で

本音を見せて愛し合える相手、

というのは忯子ただ一人、

だったのだと思う。


子供の頃から病的な女好き、

などと言われてきたのも

おそらくは肌を合わせる

ことでしか、

他人の温かさを感じられない

寂しさを抱えてきた人なのだろう。


為時に足をさすれ、

と言ったのもそうした

人恋しさというか、

ぬくもりを感じたい、

という気持ちからだと

思うと切ないものがある。


為時から見ても、

息子のように思えて

実は自分も右大臣と

繋がっている、

というのは辛い立場だろう。



なお、紫式部初の脚本は

頭にウンコを乗せる話、

というのはものすごい

チャレンジであるw


おまけに民にはウケたものの

無事に炎上した…


しかし、武者たちはどこへ

行ったのかと尋ねて、

タチの悪い散楽を懲らしめに、

と聞いたときに

なぜ止めないのか!と

激怒した道長はかっこよかった。


あれは父の兼家から

民の暮らしなんぞ知ると

大胆な政治ができなくなる、

と言われても密かに

散楽を観ることによって

民の抱いている不満や、

それでも彼らがどうやって

日々を生きるための笑いを

大切にしているのかを

幼い頃から理解してきた

道長らしい反応だった。