堤未果のショックドクトリン | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

『堤未果のショック・ドクトリン』には、ショックなことが書かれている。綿密な取材に基づいて、国民が「知らされていないこと」を知らせてくれる。無定見や無関心がいかに危険なことであるかを教えてくれる。マスコミがあえて報道しない「真実の見極め方」のヒントが書かれている。

 

「ショック・ドクトリン」とは、

カナダのジャーナリストのナオミ・クラインさんによる造語。

まず「ショック」は、テロとか戦争、パンデミック、大きな自然災害や金融危機など、非常にショッキングな出来事、事件のこと。「ドクトリン」は、政策。

非常に衝撃的な事件が起きたときに、私たちは恐怖と不安で思考停止になる。そして私たちが思考停止になっているあいだに、通常だったら、反対が多かったり憲法違反だったりいろいろな問題があってなかなか通らないような法律を、どさくさ紛れに一気に成立させてしまう。最終的には、政府や関連企業が利益を得て、一部の人だけがものすごくもうけて国民が苦しむような、そういうパターンが歴史の中で繰り返されてきている。堤さんは「火事場泥棒的手法」と厳しく指摘する。

 

例えば、2005年、アメリカでハリケーン・カトリーナという大きな自然災害があった。

学校が、流されてしまったので、公立の学校を復興するのではなくて民間企業が経営する教育ビジネスを入れてしまおうと、そういうビジネスの草刈り場にしてしまった。

それによって公立の学校はものすごく数が減って、貧しい子どもたちは行き場がなくなってしまった。

 

この本は、2001年のアメリカ同時多発テロ事件で始まる。

この事件でも、ショック・ドクトリンの魔の手が伸びた。

アメリカは本当にこれで180度変わってしまった。

「テロとの戦争」がドクトリンになり、無制限に軍事予算が通るようになってしまった。その分、社会保障はカットされた。

当局による監視とか言論統制が合法化されてしまった。

治安を守るという名目で、民間企業に発注して、公共サービスがカットされる結果になってしまった。

9・11というショックによって一番得をした業界の1つが、GAFA。いわゆるグーグル、アップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾンの巨大デジタル企業。

彼らは、9・11前は、個人情報を集めて企業の販売促進のために売っていたが非常に不評だった。「自分たちの個人情報を勝手に取るというのは憲法違反だろう」とかブーイングで、あまり動きが取れなかった。

ところが、9・11というショックがあったおかげで、国防総省自らが、「これからはテロとの戦いがあるので、治安を守るために、みんなの個人情報を渡しなさい」と、お墨付きをもらった。

そのあとは、堂々と監視もするし盗聴もするし、メールの中身や検索エンジンで検索した記録などをデジタルで1か所に集められるようになった。それによって、IT企業はどんどん巨大になっていった。

 

あのとき、「テロリスト」という非常にわかりやすい恐怖があった。私たちは、恐怖に支配されると思考停止をして、強いことを言うリーダーに信頼を寄せてしまったり、「ちゃんと国会で議論して、しっかり決めてください」といつもは思っているのに、恐怖の状態から早く脱出したいから、政府にもスピードを求めてしまう。

そこに政府がのっかって、いつもだったら反対が起こるような政策を、スピーディに、どさくさ紛れに進めてしまうことが起こる。民主主義が完全に機能しなくなる。

 

新型コロナウイルスの感染拡大の中でも、ショック・ドクトリンが発動した。

例えば教育。感染防止のためにとにかくオンライン授業をやりなさいと、全世界で呼びかけられた。

ショック・ドクトリンのもう1つの特徴は「選択肢が与えられない」。オンライン教育、デジタル教育の業界は大もうけをした。

 

日本では、2022年6月から、ペットの犬や猫の体内にマイクロチップを埋め込むことが義務化された。小さなチップを首から肩甲骨のところに注射器で挿入する。チップには、ペットに関する様々な情報が書き込まれる。いずれ人間にもということが現実になりかねない。

 

コロナ禍の中で推進されたマイナンバー制度への登録もショック・ドクトリン。

そもそもマイナンバーカードはいったいどこから出てきたのか。

住基ネットは、個人情報を一元化して、住民サービス、行政サービスを便利にするということで始まった。これが不評で「廃止しろ」という声が結構ピークになった。

そこで新しく「マイナンバー制度」と看板だけ替えて、それをどうやって普及させようかというときに、ちょうど新型コロナウイルスのパンデミック、ショック。

これにのっかって、どさくさ紛れにマイナンバー制度、そしてデジタル庁が発足してデジタル関連法案と、こういうものを一気に全部通して急激に始めてしまった。

そしてコロナ禍では特にポイント制度、マイナポイントなどさんざん税金を使ってとにかく早くマイナンバーカードを作ろうと促進して、さらに保険証と一体化していく政策を進めた。

マイナンバーカードに健康保険証や運転免許証をはじめ、様々な個人情報が紐付けされていく。行政には、行動や思想を把握されてしまう。

 

脱炭素のお題目のもと、太陽光パネル設置が推進されているが、

これにも気になることがある。パネルを作るのに、多大なCO²を排出してしまう。パネル市場の8割を環境規制の緩い中国製品が占めている。パネル取り付けのため伐採や斜面を削るため、保水しきれなくなり土砂崩れが起きやすくなる。

 

ショック・ドクトリンにつけこまれないようにするために、どうしたらいいのか。

違和感というのは、言ってみれば直感。

非常時に、政府が「ワクチンを打ちましょう」「全部オンライン授業にしてデジタル化しましょう」と言ったときに、正しいように聞こえてもなんとなくモヤモヤする。

「本当に大丈夫かな。それで100%安心かな…ちょっと不安があるな」と思ったら、それが違和感。その違和感をまず大事にする。

それから、結論を急がないこと。

とにかく私たちは、デジタル時代なので早く回答がほしい。でも、急ぐとろくなことがない。

ですから立ち止まって1回深呼吸して、「本当に一番いい解決方法はどれなのか」ということで、少し速度を落とす。

そうすると少し冷静になって、「政府は、ニュースはそう言っているけれど、本当にそうかな。ちょっと調べてみよう」

そうなってくると簡単にだまされない。

やっぱり速度を落とすこと、違和感を大事にすること、いろんな選択肢を見てみること、それが大事だ。

 

為政者は、都合の悪い情報を遮断し、多様な言論を統制し、おかしいことをおかしいと言える自由を奪うことに躍起になる。

真実とは、いつの世も努力なしには手に入らない貴重品なのだ。

恐怖は最大の罠。それに打ち勝つ最強ツールは「五感」にほかならない。

 

大人の寺子屋に、堤未果さんを迎え、カオスな日本で真実を見分ける術を語り合う。