花の命を活かす | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

珠寶(しゅほう)さんは、花士と名乗る。ハナノフと読む。

自分で作った造語だ。

華道家、生花教授、花人…どれもしっくりこなかった。

花を使って何かをしているというより「お花にお仕えしている私」というのがしっくりきた。

花に仕えることをするという意味で花士。武士と書いてモノノフと言うから、それと同じで花に士でハナノフ。

珠寳は記号みたいなもの。慈照寺に縁のある流派で花を習い、免許授与の時にこの名前をいただいた。正式には”孝心院珠寳”。戒名みたいと笑う。

 

花をたてる、いける、入れる、摘む、切る、育てる、見る、惜しむ、愛でる、つかえる…いろんな言い方があるが、花に関わる行為すべてを、彼女は「花をする」と呼ぶ。

日常生活のすべてが含まれ、人生に反映される。草花に仕え、自然のサイクルを感じ、花に自分を任せる。

花をする時に用いるのは、剣山ではなく、藁を束ねた「こみわら」。これも室町時代からあるもの。作るには、長さのある藁が必要で、機械で刈った(細かく粉砕されてしまう)藁ではなく、農園の協力のもとで、自らが手で田植えし、刈り取っている。

一度作ったものは、何年も使って、材料は無駄にしない。

 

阪神淡路大震災で、自宅は全壊。

胸にぽっかりと大きな穴が空いた。

阪神淡路大震災以前、以後でまったく別の人生を歩んでいる。

震災前、休みがちだった無雙眞古流(むそうしんこりゅう)の稽古に熱心に通うようになった。

それまで当たり前にあったことが、ある日突然なくなる。

そんな心境で、花と向き合い、理屈ぬきでぐっとそこに集中していった。

 

花の師匠、岡田幸三先生との出会いが人生を大きく変えた。

生花に没頭して、無雙眞古流といういけばなの流派について知りたく、師匠と出会った。

「水の流れに逆らわず、流れに遊んでも流されない」

「十を出し切らず、七でとどめておく。相手を思う三も大事」

「自分の心に素直になりなさい」

「花に遠慮はいらない」

「上手なものを見なさい。美しいものを見なさい」

多くのことを教わった。

 

慈照寺(銀閣寺)の有馬頼底管長と出会い、寺の初代花方として勤めることになった。

慈照寺創建当時ののいけばなの原点を遡り、「室町時代人」になりきった。お寺で過ごした十年間を極端にいうと、足利義政公とだけ対話をしていた。

お花は、お茶やお香と同じく、和歌や能楽の影響を受けていることを実感した。将軍が能の鑑賞をするときは、酒や茶をいただき、そこには香りもあってお花も飾られていた。

義政公は、座敷を飾る器や道具、床にかける軸や絵、草木にいたるまで上中下の位分けをして、今でいうインテリアの指南書を作った。

義政公は空間や道具、季節などに合わせ、きちんと美意識をもって花をながめた。それまでの豪華絢爛な世界から世の中の流れとともに、簡素を美とする価値観を作った。それがいまだに日本の美のスタンダードになっている。

 

10年勤めて、独立した。それから花士と名乗る。

義政公が確かな審美眼で作り上げた東山文化を現在に継承していくことが大切だという思いを強めている。

 

珠寶さんの3つの縁を聴く、シャナナTV『縁たびゅう』。

配信は10月2日(月)からの週と16日(月)の週に予定。

11:30~と20:30~の毎日2回配信。

ほどなく、YouTubeで、いつでもどこでも見られる。

24時間常時放送のインターネットテレビ局 - シャナナTV (shanana.tv)