たんば女性STORY167~いつか二人展 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

「ボク、うつ病なんです」と、付き添いで来た夫が、ポツリと呟くように言う。妻が話している間、柔和な表情でうなづきながら聞いている。時々話を振ると、朴訥と語ることばが実直な人柄を印象づける。

 

太附(たづけ)智子さんは、丹波布の伝習生だ。

丹波布(たんばぬの)は、国指定選択無形文化財で、丹波市青垣地域に伝承される織物。

「手紡ぎ」「手織り」「草木染」「絹のつまみ糸」の4つの条件を踏まえた上で、認定者が制作した反物だけが丹波布として認められる。

丹波布の歴史は古く、幕末から明治の初め頃まで、丹波佐治の地で農家によって盛んに織られ愛用されていた。 

時代の流れとともに一時は衰退したが、地元の有志により、昭和の初めに復興、地元保存会が発足した。

丹波布は、この地で先代から伝承されている技術を用いるのはもちろんのこと、制作に使われる素材のほとんどが、丹波地域の自然由来のものだ。

例えば、丹波の自然の中に身近にある草木を採取し、それを煮出して染色する。自然由来の染色を行うので、完成品は化学染料のようなはっきりとした色ではなく、自然の色、独自の風合いが出る。

丹波布伝習生は、2年間に渡って、丹波布伝承館にて、伝統の技術「紡ぐ」「染める」「織る」の全工程を習得し、技術の保存の一翼を担う。

 

太附さんは、1974年、大阪八尾生まれ。

子どもの頃から山好きだった。

大学ではスノーボードで山滑りを楽しんだ。

やがて自転車でダイレクトに山を感じる事ができるトレイルランニングにはまった。国内外レースに足を運んだ。

走りすぎて古傷を痛め、2011年、右膝前十字靭帯再腱手術を受ける。

生きがいだった山から徐々に離れざるを得なくなり、気持ちが落ち込む中、趣味にしていた陶芸をきっかけに、夫になる和紀(かずき)さんと出会う。それは体育会系女子からの方向転換でもあった。

彼は、ものつくりの面白さを教えてくれた。

彼の住む京都へ移り、染織と出会った。植物の不思議な色の力を知り

染めと織りの奥深さに魅了された。

そんな中、彼ががうつ病になる。

先の見えないトンネルを抜け出せない日々の中、

自分の好きな事をして生きたいと思うようになった。

以前より関心があった丹波布の伝習生として丹波へ移り住むことを決めたのは、去年のことだ。

 

妻のもとに、京都から週末になると和紀さんが訪ねてくる。

彼に丹波の空気が気に入り、移住も考え始めている。

それを聞いたボクは、「丹波で丹波布と陶芸の二人展やったらいいですよ」と放送で勧めた。収録終えての帰り際、彼は嬉しそうにこう言った。「二人展決まったら、ご案内しますね」。

その言葉を聞いて、もうトンネルは抜け出したように思えた。

 

たまたま収録の日は、智子さんの誕生日。

どこかで食事するのかと思いきや、「ボクがパスタを作ります」と、

気恥しそうに言っていた。

智子さんは、自宅でのパスタ誕生日会で、ラジオでは、感謝の気持ちを恥ずかしくて言葉に出来なかったことを、素直に「ごめんなさい」と詫び、「いつもそばにいてくれてありがとう」と感謝の気持ちを言葉にしたそうだ。

 

太附智子さん出演の「たんば女性STORY」は

7月4日、11日、20:00~、

その週の土日10:00~、FM805で放送予定。

サイマルラジオなら、日本中で聴ける。

鎌倉FMでも毎週木曜13:30~放送。