夢を形にしていく男、土橋正臣さんが、ついに念願の「英国アンティーク博物館」を作った。「BAM鎌倉」と銘打って、今年9月オープンした。
いささか旧聞に属するが、満を持して紹介する。
入口には、本物のロンドンタクシーが鎮座している。
1階から4階まで、フロアごとに、時代やテーマの異なるアンティークを展示してある。シャーロック・ホームズの部屋やヴィクトリア時代などテーマに沿った空間でコーディネートされている。
土橋さんの仕事は、英国アンティークコーディネーター。
英国のアンティーク家具を、依頼主の好みに沿ったインテリアに
コーディネートするのが仕事だ。
土橋さんは、20代にイギリスにて古いものを引き継ぎ大切に使う文化に触れ、アンティークの輸入を始めた。
土橋さんは言う。
「暮らしに息づくアンティークを残していくことは文化を引き継ぐことだ」
アンティークを所有するということは、「一時預かり人」になること。
博物館の場所は、
鶴岡八幡宮前から一直線に延びる段葛沿いと決めていた。
設計は、一面識もない隈研吾さんに頼むと決めていた。
「物を引き継ぎ、人を引き継ぐ、小さな博物館を鎌倉に作りたい」という熱い想いを手紙に綴った。手紙を読んだ隈さんと面会が叶い、彼の熱意が隈さんを動かした。
中学高校時代、鎌倉に通っていた隈さんも、鎌倉に時空を超えるような建物を作りたいと考えていた。思いが一致した。
4階の茶室には、いくつかの物語がある。
博物館が建っているのは、北条氏の屋敷跡だ。
発掘調査で出てきた800年前の木材を茶室に利用した。旧段葛の土は和紙に漉き込んで壁に貼った。
掛け軸に見立てた窓がある。設計の初期段階では考えられていなかった窓だ。そこから鶴岡八幡宮が見渡せ、三の鳥居の朱色が鮮やかに映える。
かつて、イギリス発祥のナショナルトラスト運動が日本の自然を守ったという歴史的な鶴岡八幡宮の裏山(御谷)も望める。
この窓が、英国と鎌倉を結びつけているかたちになった。
土橋さん曰く「情熱だけでここまできた」。
彼自身も自分の情熱に突き動かされてきた。
どこまでやるの!と自分で思いながらやってきた。
そうしたら、そこまでやったのだ。
(外装は、鎌倉彫のノミのあと。
刀痕の大きさが上にいくと小さくなる)