新海誠さん語る | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

新海誠監督が最新作『すずめの戸締まり』について語るNHKクローズアップ現代を見た。

震災を取り上げたものの、どう受け止められるのか不安に感じていたが、「災害と無縁の物語を描くことはできなかった」とも語った。

 

2002年、短編作品『ほしのこえ』をほぼ1人で作り上げ、アニメーション監督としてデビューした新海誠監督。

2016年に公開された『君の名は。』は、興行収入250億円、観客動員数1900万人の記録的ヒット。2019公開の『天気の子』も、興行収入が140億円を超えて大きな話題となった。

最新作『すずめの戸締まり』は、東北で生まれ、幼いころに東日本大震災を経験した女子高校生、鈴芽(すずめ)が主人公。その後、九州に移り住み、1人の青年との出会いをきっかけに、地震などの「災い」のもととなる扉を閉めていくという冒険物語だ。


「なぜ震災を取り上げたのか」と問われると、新海監督は、ある種の「後ろめたさ」が出発点になっていると答えた。

「11年前、直接被災したとは言えない自分に何ができるのか、何をすべきなのか、あの日から葛藤を抱いてきた」

「震災のとき、自分は被害の当事者ではなかった。アニメを作っている制作者として、とても後ろめたく感じていました。あれこれ考えた中で、自分として一番うまく関われるのがエンタメだと思ったのです。つらい目に遭っている人の気持ちを想像することができる…人の想像力を育むというのが、唯一できる道徳につながる部分なのかなと思うんですよ」

 

「新型コロナウイルスに戦争…。1人ひとりの力ではなすすべもない状況に翻弄される現代を描くとき、震災というテーマは避けて通れなかった」

映画では、主人公の鈴芽たちが、災害が起きた全国各地を巡り、その場所のかつての姿に思いをはせる場面が描かれている。

震災後、人が住まなくなったり、姿を大きく変えたりした地域にも、かつて人の営みがあったと想像することで、災害がもたらしたものの理解につながると、新海監督は考えた。

「廃墟になった場所は、いろんな喜びや悲しみがあった場所です。映画の中で、廃虚にたどりついた鈴芽が、『土地の声を聞け』と語りかけられる場面がありますが、そういうことを通して、鈴芽は『この場所には今とは違う風景があったんだ』『かつては人の営みがあったんだ』と、人々の姿を想像していくわけですよね。場所や他者への想像力だと思います。今は人がいないから超然とした冷たい美しさになりますが、でもそこに血の通った感情があったことを鈴芽が知っていく。そういう思いを感じながら、鈴芽が東北に向かっていく物語にしたかったのです」

 

旅の途中でさまざまな人に出会い、助けられながら成長していく鈴芽。終盤には、過去の記憶と向き合い、自分自身を励ましながら前へと進む姿が描かれています。

「自分を認め、信じること」。そこに“扉”を閉めて、未来を切り開くヒントがあると、メッセージが込められている。

「自分で自分自身の気持ちを励ますということは、ふだんからやっていると思うんですよね。きっとそれが生きていく上で必要だから、もう、やむにやまれずやっている行為なのではと思うんですよ。かつて自分が『つらかったな』と思ったことを、今の自分が『大丈夫だよ』と励ますことで、人間はなんとか気持ちを保ったり、つらい時期を脱したりできていると思うのです。その上で、「私が鈴芽だ」というふうに思ってもらえる“奇跡”みたいなものも、ちょっと期待しながら作っていましたね」

 

物語に出来ることは、共感や感情移入。

「人が人に共感することが増えたら、社会の空気も少しは吸いやすくなるのでは。社会が寛容になるのでは」

そういう想いを込めて、新海さんは、映画作りをしている。