千住真理子さんと館野泉さんが、同じ舞台で共演する。
これは行かねばなるまいて。
初台の東京オペラシティコンサートホールに出かけた。
満席のホールを見渡しながら、
この2人を、自分のトークライブにお招きしたなんて夢だったのではと
感慨にひたる。
館野さんは、まもなく86歳。千住さんも還暦。
円熟の音が、心を捉えないわけがない。
最初の一音を聴いただけで、引き込まれる。
一音一音愛おしむような思いで、固唾を飲みながら聴いた。
静まり返った森で、木漏れ日のキラキラした輝きが見えるようだ。
「館野さんの音楽は柔らかな無限大の音世界に誘ってくれる」という
千住さんの気持ちがよくわかる。
綺麗な音を聴いていると、すっかり浄化される。
ヴァイオリンの名曲である「タイスの瞑想曲」「G線上のアリア」「夢のあとに」のコラボ。原曲ほぼそのままの音符を舘野さんが左手で奏でる。千住さんは、自らのエッセイにこう書いている。
「当然、左手のために書かれた曲ではないから、至難の業であり不可能に近い。いや、不可能なのだ、本来。
最初のリハーサルで果敢に挑戦なさる舘野先生に対して僭越ながら『この曲はやめることにしませんか?』と提案した私。
が、しかし舘野さんはキッパリと、『いや、意地でも弾きます』と、少しだけいたずらっぽく笑ったあと、『練習します』と、あの穏やかな微笑みを私に返してくださった。私は感動し、なんて素晴らしいマエストロなんだろうと驚愕した。
そう、舘野泉さんは、常に穏やかでいつも静かに落ち着いてらっしゃる。舘野さんが声を荒げて怒ったりするなんてありえないし、慌てたりイライラしたりすることは全く無い。ピアノに向かえば目に見えるほどの集中力で音楽に没頭し続けて終わりがない。
物理的に考えれば不可能ではないかと思われる音符に迷いもなく向かっていく。決して諦めない、挑戦し続ける、そういう舘野泉さんの姿勢は、世界中のあらゆる職種の方々に影響を与えるはずだ。
『もっと練習して、もっと弾けるようになります』
そんなことをおっしゃってハハハとお笑いになるマエストロ、実際見事に弾きこなし素晴らしい音楽を奏でる舘野先生、凄すぎます!」
きょうのステージでも、館野さんは、穏やかな含羞の笑みを絶やさなかった。そして、「左手では本来不可能」なことを、自然体で弾きこなした。千住さんとの音の対話を楽しみながら…。
きょうは、朝から物騒なニュースが流れていたが、
俗世をすっかり忘れ穏やかな午後のひとときが過ごせた。