朝日新聞一面の『折々のことば』は、連載2200回を超えた。
去年7月、ボクのことばも選んでいただき恐縮しつつも、大いに喜んだ。折々のことばを選ぶ鷲田清一さんは、このように述べている。
「吸い寄せられる言葉には2種類あると思います。
一つは自分のモヤモヤした思いを代弁してくれるような言葉。不安定で自信がなくなっている時に肯定してくれたり、背中を押してくれたりする言葉です。
もう一つは、思い込んでいたものに対して『あれっ、そんな考え方ってあるの』と、いったん立ち止まらせてくれるような言葉です。皆さんの心に響くのはどちらが多いでしょうか。
僕の『折々のことば』では、基本的には『あれっ』て思う言葉を選んでいます。一読して意味がわからなくても心をわしづかみにされる。なぜこの言葉にひかれるのだろうというところから、自己発見があると思うのです。この言葉と出会ったことで、あみだくじのように、こっちの道を歩いていたのにパッと別の道にいった、そんな根の深い変化を紹介してもらえるとうれしいです。
選んだ言葉への反応にも色々なスタイルがほしい。取り上げた1行の言葉に負けない1行でボーンと言い返す。この言葉だけは受け入れられないというものでもいい。要領よくまとめようとするより、沸き立った気持ちのままの『野生の言葉』で表現してほしい。
中高校生は自分が他人にどう思われているかに神経をすり減らしています。そんな時に、ある言葉に出会えたことで、自分で感じている自分が際立って、『私はこう』と言えるまでに一歩前に踏み出せたら、それはすごい経験です。みなさんからの、想像もしていなかった文章、感受性、リズム感と対話できるのを楽しみにしています」。
朝日新聞では、7年前から、中学高校生に呼びかけ「私の折々のことばコンテスト」を開いている。2021年は、29664作の応募があった。
若い感性をさらに研ぎ澄ますことばとの出会いに拍手を送りたくなる。
素通りせず、自分の心を耕すきっかけにする感性は素晴らしい。
ことばを発する方にとっても、ことばを受け取る方にとっても、共鳴することは、心を豊かにしてくれる。
中でも、高校生の部で最優秀に選ばれた宮城県仙台第三高校1年の熊谷孝太くんの感性には、感心した。
彼は寺山修司の「なみだは、にんげんのつくることのできる一ばん小さな海です」に感銘を受けた。
彼の感想文の表現が素晴らしい。
「涙は海。
悔し涙は厳しい努力の雫が集まった海。
嬉し涙は、感動を分かち合いたい思いの粒が重なった海。
それぞれの海の深みに輝く心の揺れがあることを、この言葉に教わりました。私は、淀みない海を創れる人間でありたい。そして他人の海を感じ入る人間でありたい」
熊谷くんの創り出す海が楽しみだ。彼が作家になるのか詩人になるのか。彼の紡ぐことばが、すでに「折々のことば」になっている。