鎌倉浄智寺。
「石の彫刻に語りかける揚琴の調べ」という催しが行われた。
文字通り、境内に展示された石の彫刻たちに、優しく響く揚琴の調べ。
聞きながら、縁の不思議に思いを馳せていた。
時系列でたどっていこう。
石彫り作家の川井信一さん。愛知県瀬戸市で50年、石を刻み続けてきた。NHK名古屋時代、彼にインタビューした。以来、川井さんは、折に触れ、墨痕鮮やかな字で、丁寧な手紙をくださる。「実直」そのものの人だ。頼み事も遠慮がちだ。その川井さんが紹介してくれたのが金亜軍さん。奥ゆかしい川井さんが、放送で取り上げてほしいというのは珍しいことだ。
金さんは、来日30年。中国揚琴の演奏家として活躍している。ボクの番組に出てもらって以来、つかず離れずの付き合い。ボクが作詞した「あの日あの時」に金さんが曲をつけ、川井さんが絵本にしてくれた。
だが、3人が同時に顔を合わせたことはなかった。この日、初めて実現した。
そして、浄智寺住職の朝比奈恵温さん。2001年のラジオ特番「ゆったり鎌倉」で出会って以来の付き合い。気さくな人柄に甘えて、ことあるごとに、浄智寺でイベントや対談ロケなどをさせてもらっている。
遠慮の固まりのような川井さんが、このたびも、めったにない頼み事を
封書に書いてきた。浄智寺に自分の作品を展示したい。住職に口利きをして欲しいというのだ。一も二もなく引き受け朝比奈さんに事情を説明したら、朝比奈さんも一も二もなく了解してくれた。
そして、このたびの集いも実現した。
金さんは、揚琴の独奏。「りんご追分」「荒城の月」「この道」など日本人の琴線に触れる曲を演奏してくれた。浄智寺の庭を眺めながら、心に沁みる。
途中、無茶ぶりで呼び出され、初の三人衆揃い踏みが実現した。
金さんが、即興で奏でた「川井さんのテーマ」。ノミ片手に石に向かう川井さんの表情が浮かぶ。
人生は縁で出来ている。縁が縁を呼び、縁が縁を広げ、まあるい円のようになる。
川井さんの「石の彫刻展」は、
10日まで北鎌倉・浄智寺で開かれている。
(3人揃い踏みは初めてのこと)
(3人衆の共作)