ことばと色2~赤を極める(壱) | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

色の専門家、鈴木香穂里さんと開くルーム「ことばと色」の2回目。

今回から、感性豊かな日本人が、いかに微妙な色の違いを呼び分けていたのか、色の名前に特化して取り上げていくことにした。

染司「よしおか」五代目の故・吉岡幸雄さんの『日本の色辞典』を参考にさせていただいた。

吉岡さんは、「人が美しい色を求め続けるのは、目に映る自然の移ろいを身近に引き寄せたいと願うから」と述べている。

香穂里さんも「今は騒色(そうしょく)の時代という。たくさんの色が氾濫する中で、色に対する感性が雑になってきている。騒色から草色へ。

草木を染めて命を移していた時代の感性を取り戻したい」と語る。

 

香穂里さんから、明暗顕漠」(めいあんけんばく)という言葉を教わった。最も古い日本の原点色は「アカ、クロ、シロ、アオ」の4色。古代の日本人をその4色の表現するとき「明暗顕漠」(めいあんけんばく)と、光の感覚で色彩を表現していたようだ。

明=赤、暗=黒、顕=白、漠=青。

例えば、赤の他人とは明らかな他人という意味。

腹黒い人とは心根が暗いという意味。

白は太陽光線を表すようで、はっきりとした色のことで即ち「顕」。

青は白の反対でぼやけている色で灰色のことだ。

青春とは若い人を指して表しますが、本来はぼやけた人という意味で、成熟していない若い人の意味になるという。

この4色は、色名の後ろに直接「い」を付けると、「赤い、黒い、白い、青い」と自然な表現になる。

「赤」と「白」(紅白、赤白帽子など)「赤」と「青」(赤鬼、青鬼など)、「黒」と「白」(いいこと悪いことをしたときに「シロ・クロ」)、

など反対の色を持つ言葉も、この4つの色の名以外に日本語では存在しばい。「赤々と」「青々と」「白々(しらじら)と」「黒々と」いった色名を重ねた副詞も、この4つの色以外存在しない。

日本の原点色は、長い歴史の中で、単純に色を表すだけではなく

様々な使い方がなされていたのだ。

 

さてさて、「赤」は、人間にとって、最も身近な色といえる。

太陽、火、血。いずれも命に関わるものだ。

太陽が昇り一日が「アケル」。「アカ」の語源と言われる。

天照大神に象徴されるように、赤は「神の色」といえる。

火の発明は、人間社会を豊かにした。夜を真っ暗闇から解放し、

安心安全をもたらした。暖を取ることが出来た。煮たり焼いたり、食生活も変えた。

土の中の鉱物、草木、虫からも「赤」を抽出しようとした。

特に「紅花」で染めたものは高貴な女性たちが身に纏い、化粧に使った。「今様色」(流行の色)と呼ばれ、高級な贅沢品となった。

「今様色」は「禁色(きんじき)」とも呼ばれ、庶民には禁じられた色となった。

そこで、庶民は、大量の紅花を使わず、わずかの量で薄い紅色を生み出した。これをわずか一斤(600グラム)の紅花で染めたことから(いっこんいろ)と名付けた。またゆるしを得るという意味で「聴色(ゆるしいろ)」とも言った。

「聴す」と書いて「ゆるす」の語源はここにあったのだ。感動感心。

人の話を聴くことは、まずは「相手ゆるすことから」という例えのルーツが平安時代の色の名にあったのだ。

 

(今様色 いまよういろ)

(聴色ゆるしいろ 一斤色いっこんいろ)