利他と料理 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

『利他と料理』。

一見噛み合っていないようで、よく考えると噛み合っていそうな

不思議なタイトルに惹かれて読んでみた。

 

「自然−作る人−食べる人」という関係のあいだに、利他がはたらく。

料理人は食べる人の健康を思って料理を出す。これぞ利他。

食べる人の姿から料理人は、戻される利他を受け取る。

「お芋が気持ちよさそうにしているなぁ」と、お芋さんの気持ちに寄り添い対話しながら、必要以上の手を加えない。

自分をなくすところに日本文化の良さがある。土井さんは、昨日の自分に頼らず、きょう初めて料理をするつもりで臨むそうだ。

 

コロナの影響下で家にいる時間が長くなり、みなが向き合うことになったのは、料理という人類の根本的な営みのひとつだった。

「ポストコロナ」という言葉のもと、世界の劇的な変化が語られがちな中、私たちが見つめ直し、変えられるのは、日常の中にあることから、ではないか。

ベストセラー『一汁一菜でよいという提案』や料理番組で活躍する料理研究家の土井善晴さん。

政治学者であり、最近は「利他」を主要なテーマの一つに研究をしている中島岳志さん。
異色の組み合わせの二人が、家庭料理、民藝、地球環境、直観、自然に沿うこと…等々、縦横無尽に語らい、ステイホーム期間に圧倒的支持を受けたオンライン対談「一汁一菜と利他」を、ライブの興奮そのままに完全再現した本だ。

 

土井さんから、関西独特の物腰の柔らかい言い回しで、

「料理はええ加減でええんです」「まあ、だいたいでええんです」と言われたら、

「ああ、そんなもんかいな」と肩の力が抜ける。

「地球環境のような世界の大問題を解決する力は、一人の人間にはない。しかし私たちに出来ることは、『良き食事をすること』。台所の安心は、心の奥底にある揺るぎない平和です」とも語る。

中島さんは、料理の手さばきやしぐさの中にこそ、今後の世界を考える上で重要な叡智があるのではと分析する。

さらに中島さんは、「ええ加減とは、前向きでポジティブで、すごく哲学的なハーモニーという意味」と解釈している。

自分がおいしくすることは出来ない。自分一人では何も出来ないことを知っておくこと。利他は料理に限らず、いま求められる精神だ。