障害がある 障害を持つ | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

2月の富山ことば磨き塾で、100万ドルの笑顔の女性に出会った。

車椅子に乗っていることを忘れさせてしまう笑顔だった。

 

兼氏浩子さん。

いまは、石川県津幡町で訪問看護ステーションを経営している。

かつて看護師をしていた。

結婚し、2人の子の母になり、仕事家事育児に充実の日々を送っていた33歳のとき、背中に病気が見つかり、突然、下半身の自由がきかなくなり車椅子生活になった。

当時のいきさつを書いた『すてきな世界の愛言葉』という本を送っていただいた。この本には、兼氏さんの障害に対するバリアフリーな想いが綴られている。

彼女は、メガネをかけるのと同じ感覚で車椅子を乗りこなしている。

障害は「個性」や「自分らしさ」の一つだと思っている。

心のものさしの尺度を変えるだけで、見えるものが変わってくる。

兼氏さんは、車椅子生活になっからの37歳のとき、3人目の子を授かった。思うようにならないことばかりだったが、出来ないことを諦めず、出来るようになるにはどうしたらいいかと、考えてきた。その生き方が、周囲の心のものさしの尺度を変えていった。

 

兼氏さんは、本の中で「障害を持つ」という表現で通していた。 NHKでは、障害は持つものではないという考え方から「障害がある」 と用語統一していたので、この点を兼氏さんに聞いてみた。 彼女から明快な答えが返ってきた。 「障害ということの捉え方なのかもしれませんが、障害は自分にあるものではなく、環境や人の心の中につくられると思っています。障害者という言葉も、その人を指す と言うより障害を感じる場のことだと」 「私は車椅子で生活しています。立つことはできませんが、車椅子や手動の車があれば1人でどこにでも行けます。バリアフリーで私にとって困ることのない環境では、車椅子に乗っていても障害つまり困ることがないので私は障害者だと感じていません。
バリアフリーでない場所も手伝ってくださる方がいて困らなければ障害を感じません。健常者と言われる人たちでも困ることが生じる場所はその場では障害者ということです。たとえば、全員が耳が悪く手話で話す環境の中に手話がわからない人が入ればその人は障害者ですね」
「私を知る人は、誰も障害者扱いしません。車椅子を押そうとしませんし、家の中でも家事も普通にします。やり方は違いますが、できることに家族は障害者と思っていないから知らん顔でテレビを見ていられるのかと思います。
なので、障害はいつもあるわけでないので、持つと書きました」。 これが彼女の矜持なのだろう。納得。 「持つ」とか「ある」とかどうでもよくなった。

 

(右側が兼氏浩子さん)