コロナウイルスが教えていること⑪~カタカナばかりになっちゃった | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

爆発的な患者増加と言わず、オーバーシュート。

都市封鎖と言わず、ロックダウン。

感染者集団と言わず、クラスター。

新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、

政府や専門家が、国民に呼びかけるとき、

なぜか「カタカナ語」を常套句にしてきた。

 

朝日新聞が行った調査によると、

このカタカナ語、評判は芳しくない。

官僚や政治家が国民をけむに巻くために使ったのではと疑念を持つ人もいた。不都合な真実を伝えない意図を感じてしまう人もいた。

パンデミックのように、一言で危機感が伝わりやすいカタカナ語もあるが、誰もが理解しえないカタカタ語を乱用するのはどうかと思う。

ちなみに、オーバーシュートは、本来は為替相場などで「景気の実態から外れた行き過ぎ」を指す経済用語だったが、転用された感がある。

 

コロナ以前から、カタカナ語の浸食は増加の一途。

インキュベーション、サブスクリプション、インスタレーション、

サスティナブル、ダイバーシティなどは、わからない人の方が多いと思う。置いてきぼりを作らないためにも、もし使う場合も「わかりやすい言い換え」を添えて使うべきだろう。

人口に膾炙する…これまた難しい日本語で、今では知らない人もいるかもしれない。膾と炙り(肉)は、誰の口にもうまく感じられるところから、人の口にのぼり、広く知れ渡るという意味で使われてきた。

ゆえに人口に膾炙することばになれば、カタカナ語表現もいいかもしれないが、ニュアンスを伝える上で、よく考えて、使う使わないの判断をすべきだろう。

人口に膾炙ということば自体が人口に膾炙しなくなってきている。

ことばは生き物だから、

カタカナ語も、自然淘汰されていくかもしれない。

 

(5月2日付け 朝日新聞朝刊)