コロナウイルスが教えていること⑨~ゼロリスクの道徳 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

医療人類学という研究分野があることを、初めて知った。

不確実な未来の人間の生き方をテーマに、病気の当事者や医療関係者の聞き取りをしながら、分析をしている。

医療人類学者の磯野真穂さんの発言が、毎日新聞と朝日新聞の

両方に大きく掲載されていた。共感することが多かったので、両方の記事から抜粋してまとめて紹介したい。

 

ゼロリスクなんてありえないのに、ゼロリスクを追求する社会に

なっていないだろうか。

感染したことが罪悪のように言われ、「無責任な行動」に警鐘を鳴らされ、「自粛警察」が横行し、心無いことばを浴びせかけられる。 

「食事は横並び」「食事中の会話は控えめに」など、ささやかな生活にまで、行政が指示をする。

新型コロナウイルスのリスク管理を徹底的に追求する社会に身をおいていると、自分で考えて行動することを放棄せざるを得なくなる。

 

社会秩序を乱すとされることに「正しさ」というこん棒が振るわれている。感染リスクをゼロにすべきという正しさは、強い排除の論理を生み出す。感染の危険から社会を守るという錦の御旗は、安全な集団と危険な集団を分けてしまう。パチンコをする人間、自粛せず営業を続ける飲食店は、名指しで攻撃される。

 

感染拡大を抑制さえすれば、社会は平和なのだろうか。

ことコロナウイルスだけでなく、人間の命にとって、様々なリスクを考えねばならない。これまでは、人と人が結びつき、人が集まる生活空間の中で、知恵を寄せ合いリスク回避に努めてきた。オンラインでは、その代わりは務まらない。

今の社会には、ある程度のリスクを許容する胆力が必要だ。

 

(毎日新聞&朝日新聞の記事)

(磯野真穂さん)