どうして、天は同じ人に二物も三物も与えたのか。
シンガーソングライターというだけで、すでに3つもこなしている。
ヴァイオリンも弾ける。トークはいつも抱腹絶倒。
博識にもとづいた文章力もすごい。小説も書いている。
被災地支援や難民支援にも熱心だ。
NHKテレビの深夜に、
ラジオ的放送をしている番組は15年目に入った。
そう、さだまさしさん。
今回は、特にその「文章力」を賛えたい。
最新刊『さだの辞書』は、三題噺をまとめたエッセイだ。
3つのテーマを掲げ、その3つを結ぶ逸話がものの見事に書かれている。その記憶力、洞察力、表現力に舌を巻く。そのどれもに半端でない深さがあるのだ。ボクも文章を書くのは大好きだが、さださんの文章を読んでいると、そのうまさに唸ることしきり。とても太刀打ちできない。
歯ぎしりしたくなるほどだ。
さださんは、今年4月10日で、68歳になった。
ボクの1歳年上の兄貴分だ。
4月10日といえば、かの永六輔さんと同じ誕生日。
幼いころから憧れていた永さんと同じ誕生日であることは、さださんの幼いころからの密かな自慢だった。
ちなみに淀川長治さんも同じ誕生日。だが、淀川さんはさださんの存在を知らなかった。それを面白がった永さんが「まさし、君はまだ無名です」と葉書をよこした。
誕生日は、産みの母に感謝する日という淀川さんの話を聞いて以来、さださんも母に「有難うコール」をするようになった。母からも誕生日には、毎年長い長い祝電が届いた。そういえば、ボクの母も誕生時刻に合わせて電話をくれた。面と向かって有難うが言えなかったボクは、一度だけ放送で「有難う」を伝えたことがある。まあ、いずこも似たような逸話があるようだ。
さださんの母も永さんと同じパーキンソン病を患っていた。
4年前の4月7日、さださんの誕生日の3日前、「ふと思い出した買い物にでも出かけるかの如くふらりとこの世を去った」。
さださんも、これで母からの祝電は来ることはないと思ったそうだ。
ボクも、母が亡くなったとき、誕生日コールはもうかかってこないのだと同じようなことを思った。
さださんの文章には、「あるある」が含まれている。
共感力も文章の手練れの大事な要件であろう。