芸能人の不倫、政治家の不規則発言、SNS投稿の悪ふざけ…
自分となんの利害関係もないのに、「正義」を振りかざし、強い怒りや憎しみの感情をぶつける人が増えている。
脳科学者の中野信子さんは、これを「正義中毒」と断じる。
他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、ドーパミンが放出される。快楽にはまると、なかなか抜け出せない。糾弾する相手を常に求め、完膚なきまでに叩きのめさずににはいられなくなる。
自分と異なるもの全てを悪と考えてしまう。自らの正義に酔い、相手を一方的にけなすことに満足感を覚える。
「許せない感情」を見える化してしまったのが、インターネットのSNS。
有名人の不用意な発言やスキャンダルなどのわかりやすい不正義に、無数の一般人が積極的に言及する状況。いわゆる「炎上」だ。
SNSは、世論を動かす力を持つようになった。SNSの普及で正義中毒にかかりやすくなった。
誰かを許さないことで自己肯定したい、自分の正しさをアピールしたいという欲求は、おかしなことだと思う。
正義中毒者は、「バカ」ということばを頻繁に使う。
自分が正しいという過剰な思い込みから、異なる考えを持つ他人を「バカ」と決めつけ、攻撃する。
さて、ここからが脳科学者としての本領発揮。
脳の前頭前野は、分析的思考や客観的思考を行う場所。
固定観念や偏見を鵜呑みにせず、事実やデータをもとに、
合理的思考や客観的思考を巡らせている人は、前頭前野が衰えていない。前頭前野の働きが保たれていると、「メタ認知」が伝える。自分自身を客観的に認知する能力だ。その能力を保持することが「正義中毒」にかからなくする。
前頭前野を鍛えるための方法。
道順を変えたり新しいレストランで食事したり「慣れていることとは違う新しいことをする」。
絶対に読まない本をあえて読んだり、未知の分野のネット検索をしたり「不安定な環境に身を置く」。
こういう体験が固定観念を柔軟にする。いろんな考え方が存在すると思える。知的偏食を防ぐ。
オメガ3脂肪酸を意識的に摂取したり、睡眠を十分に取ったりすることも大事。
そして、何より、自分にも他人にも「一貫性」を求めない。
「とるにたらないどうでもいいこと」と思う感覚が、一貫性を求めないほど良い距離感を醸し出す。
人間は不完全なものであり、永遠に完成しないという意識が、正義中毒から解放するのではないか。