大音声 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

これは、もう太夫の一人舞台だと思った。

身をよじりながらの大音声に引き込まれる。

彼が登場するや、劇場の空気が変わった。

 

六代目竹本織太夫襲名披露公演に行ってきた。

長年慣れ親しんできた豊竹咲甫太夫という名を改める。

織太夫という名は、

師匠の豊竹咲太夫さんの父で人間国宝だった

八代目竹本綱太夫の前名という由緒がある。

咲甫太夫さんは昭和58年、8歳で咲太夫さんに入門。

織太夫という名をいただくということは、

次代の文楽を担う太夫として期待されている証拠だ。

織太夫という芸風は、120%の力を出すのだそうだ。

野太い声、圧倒的な声、迫力満点の声が、

満席の観客の心をわしずかみにする。

 

太夫と三味線は人形から離れたところにいて、しかも人形を見ない。人形も合わせていかない。

付かず離れずのところで同時進行する3つのものを、

観客が脳の中で合体させる。

だが、あえていえば太夫の語り一つで、

同じ演目でも印象がまるで違ってくる。

人形遣いが人形に命を与える存在とすれば、

三味線は、劇的効果を与える存在。

そして、太夫は人形に息吹きを与える存在といえよう。

太夫の語りで、人形の心情に同化してしまう。

 

太夫は舞台に上がるとき、

丹田に幅10センチくらいの太い木綿帯を腹に巻く。

芯のある声を出すため、ぎゅっと強く締める。

小豆や砂を入れた重しを懐に入れ、腹式呼吸の目安にする。

足は陸上のクラウチングスタートのような爪先立ちで

正座をしているわけではない。

膝と指先に力を入れ、上半身を支えることで、

声がよく出る状態を作る。

多くの人物を演じ分ける努力も並大抵なものではない。

大看板を背負い、いずれは綱太夫を名乗るためにも、

果てなき道を歩むことになるが、彼なら重責を担い切ることだろう。

 

襲名披露公演は、東京の国立劇場で、26日(月)まで。

 

(竹本織太夫さん)

(襲名披露口上 慣例により、

師匠の豊竹咲太夫さんだけが話し、

織太夫さんは無言)

(八代目竹本綱太夫さんの写真を師弟で囲んで)

(妻の増田いずみさんは声楽家)

(いずみさんは、大阪ことば磨き塾生でもある)