何がテレビ報道をダメにしたのか | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

神保町駅を降りてすぐのこと。

聞きおぼえのある声が聞こえてきた。

独特の低音ボイス。囁きかけるような声だが、説得力がある。

そう、姜尚中さん。

思わず、「姜さん!」と声をかけたら、

電話中だったにも関わらず、はにかんだような笑顔で、

力強い握手をして再会を喜んでくれた。

 

昨夜は、姜尚中さんがコーディネート役の「本と新聞の大学」。

ゲストは、TBS報道特集キャスターの金平茂紀さん。

1953年生まれの同い年。

テレビ放送の始まった年に生まれた金平さんは、

TBSで40年、テレビ報道の現場で仕事をしてきた。

だが、報道姿勢の変貌を憂え、自嘲気味に語る。

政府の言いなりの御用記者が増え、

少数派を排除し、横並び。これがいまのテレビ報道の現状。

3ケ月も続いた日馬富士報道。

トランプ来日時のヨイショ報道。

沖縄報道の軽視。

金平さんは、伝えなくていいことに時間を割き、

伝えねばならないことを伝えていないという。

 

先の総選挙は、自民党が圧勝した。

18歳と19歳の47%が、20代の49%が自民党に入れた。

若い人に「投票の判断」を考えさせる報道をせず、

ワイドショー的なネタばかり取り上げていたことに、

金平さんは、疑問を呈する。

この選挙結果は、「三権分立の壊死」を意味する。

裁判所は追認機関と化し、捜査機関も御用化した。

国会は、総選挙という名のリセット機能を果たす場所なのか。

野党の質問時間を大幅に削ろうというゆゆしき提案も出ている。

人事権を握られた官僚は「骨抜き」状態。

いま危機的な状況なのだ。

 

TBSには、かつて田英夫という骨太なキャスターがいた。

爆撃を受けるベトナム側に立った「ハノイリポート」は、

テレビの歴史に刻まれる迫真のものだ。

金平さんは、田さんに憧れてTBSを志望した。

そして、もう一人TBSには偉大な先達がいた。

筑紫哲也さん。

彼の遺言を聞いてほしいと、講演の最後に、

2008年3月28日の最終回のビデオを見せてくれた。

白血球500という立つこともままならない中で、

筑紫さんは、静かな口調でこう語っていた。

「権力を監視する。少数派であることを恐れない。多様な意見に耳を傾ける。自由な気風を大切にする。このたいまつは変わらぬものとして受け継いでいってほしい」

だが、筑紫さん死して10年。時代は逆方向に進んでいる。

たいまつを受け継ぐためには、「面従腹背」で愚直にやるしかない。

唇を噛みしめながら語る金平さんの語りを

忸怩たる思いで聞いていた。

 

新人アナウンサーの頃に言われた。

「いきなり!を打つな。せめて??を2個打ってから!を打て」と。

情報を鵜呑みにするなということだ。

発信側も受信側も鵜呑みにしない。

その為に、可能な限りの両論併記の情報を集める。

そして、事実と思しき情報から、

自分なりの「真実」を見極める目を持つ。

テレビメディアは、その手助けをしなければならない。

世論誘導の一方的情報提供は、もってのほかだ。

発信側にいる微妙な立場もわかるだけに、

煮え切らない思いを抱えながら、孤軍奮闘する同い年の金平さんに

エールを送りたくなった。