素直に想いを伝える | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

 

 ラジオファンの間で、吉田照美さんの名は轟いている。

ラジオパーソナリティとして、40年のキャリアを持つ。

深夜番組で一世を風靡した『セイヤング』、

20年担当した『やる気MANMAN』、

『ソコダイシナトコ』などの番組を担当。

深夜、午後、早朝、

すべての時間帯から照美さんの声が流れてきた。

「ラジオは、身ぐるみはいじゃうような感じで臨んでいる。

そうしないと、リスナーの心をつかむのは難しい。

リスナーは、建前ではなく、話し手の本当の声を聞きたいと思っている」。

「しゃべり手の個性や本音が思わず出てしまう。

その人間臭さが、ラジオが支持され続けている理由だと思う。

本音を語れるメディア、それがラジオ!」

だから、思ったことを素直に口にしてきた。

ただそれだけでなく、かつての自分のような引っ込み思案のリスナーの居場所を忘れないようにもしてきた。

照美さんは、一人っ子で、対人恐怖症で、赤面症で、

上がり症だった。

人前で話すと顔が真っ赤になった。心臓がドキドキした。

あまりにもボクとの共通項が多い。

人は「口から先に生まれてきた」と思っているに違いないが、

実は、マイクの前にいる人間は含羞をもった人が多いと思う。

ラジオは、素の自分をさらけ出さないと、

リスナーに親近感は持ってもらえない。

ただ、素を出すことは、

恥ずかしいという思いも持ち続けていたい。

そういう点でも、

照美さんと共通の思いがあることが確認出来て嬉しかった。

ボクは吉田照美さんのことを自著『ラジオが好き!』で、

こんなふうに書いた。

 

吉田照美さんの新刊『「コミュ障だったボクが学んだ話し方』

を読んだ。この本の中でも、話し上手にならなくてもいいから

自分の想いを素直に話せばいいと書いている。

少しくらい話が散漫でも、熱い想いがあれば相手に伝わる。

共感、共鳴、共振し合って笑いが生まれることが、

コミュニケーションの理想だという照美さんに共感。

 

照美さんは、

どのように話すかではなく、何を語るかと内容を重視する。

その上で、大事なのは、冒頭の「つかみ」。

照美さんは、そのための情報収集に余念がない。

ある程度、話をデフォルメすることも許容する。

自分の失敗談を面白く話せる人は、共感してもらいやすい。

話の「余韻」も大切だ。

 

照美さんは、今年3月、帯番組の最終回で、こう語った。

「創造の創は、つくるともきずとも読む。

 傷から新たな創造が始まる。

 傷を恐れていては、創造は出来ない」

傷を恐れず素直に想ったことを口にしてきた

照美さんらしいことばだ。

だから失敗もした。批判も浴びた。

本の中に、傷も包み隠さず書いてある。

だが、照美さんは、

何も考えないでことばを口にしてきたとは思えない。

考えているようで考えていない。

考えていないようで考えている。

そうでないとプロと言えない。

耳心地の良い短いことばで、なんとなく納得させるより、

つっかえつっかえでもいいから、

自分の素直な想いを口にしたほうが、人の心に届くはずだ。

時間をかけて納得したほうが腑に落ちる。

 

ことばがないがしろにされた年であったように思う。

「国難」「排除」「忖度」・・・

あまりにも扇動するようなことばが

安易に使われてきた気がする。

だが、ことばには、使い方を誤らなければ、すごい力がある。

吟味してことばを使うには考えければならない。

いま、考えなくなっていることが懸念される。

AかBか対立した意見があるとき、

どちらが勝つかだけに関心が集まってしまう。

そうではなく発展的に両者のいいとこどりの

Cを導き出すことが大事だと思う。

〇か×ではなく、△。

正解か不正解かではなく「別解」。

それが知恵だ。

考えて絞り出したことには邪心がないから

素直に想いを伝えることが出来るはずだ。

不用意なことばを使わず、用意したことばを使う。

それを来る年の戒めとしたい。