将棋がわからないと言う永世七冠 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

 将棋をこよなく愛するものの一人として、羽生永世七冠誕生の快挙を書かずばなるまい。

羽生さんは、永世七冠達成直後こう語った。

「やはり将棋そのものを本質的にどこまでわかっているかといわれれば、わかっていないのが実情。これから自分自身が強くなるかはわからないが、そういう気持ちをもって次に向かっていけたらいいなと思う」

浮かれることなく、

こう言えることが、王者のたしなみなのだろう。

 

 羽生さんは、1989年、初タイトルの竜王を獲得。

その後も次々とタイトル戦で勝利を積み重ね、96年には前人未到の七冠同時制覇を果たした。

 永世称号では、95年の「永世棋王」を皮切りに、「永世棋聖」「名誉王座」「永世王位」「永世王将」と獲得し、2008年には永世名人(十九世名人)も得た。

 残る永世竜王獲得まであと1期と迫っていたが、渡辺竜王に挑戦するものの敗退。10年にも敗退し、7年ぶり3度目となる今回の挑戦で、ついに大記録を樹立した。負けても負けても諦めない不屈の闘志がすごい。それも剥き出しの闘志ではなく、静かな闘志だ。

 

 47歳といえば、とうに「指しざかり」を過ぎている。だが、果てしない好奇心、探究心がある。

 将棋ソフトの進化にともない、経験や過去の知識が通用しなくなっている。あっと言う間に戦術も変化する。若手の将棋からも吸収すべきものは糧にして、常に最新型も指しこなす。常にアップデートし続けている。自らに「果て」を作らない。

 凡人は、迷う。あの手もこの手もよく見える。迷いに迷って、

結果いちばん指してはいけない手を指してしまう。

 だが、羽生さんは、情報処理能力に長けている。「必要のない手」は、即座に切り捨てることが出来る。「最善手」だけが脳裏に浮かぶ。

 

 余談だが、将棋中継で、羽生さんと同じ旅館に泊まった時、

温泉で一緒になったことがある。

 湯船にいたボクは、羽生さんが入ってくるのを待っていたが、

いつまでたっても入ってこないので、茹でダコになる前に、先に上がってしまった。

 羽生さんは、何をしていたのかというと、ゆっくりゆっくり時間をかけて、シャンプーをしていたのだ。自らの頭をいとおしむように。いつもフル回転させていることに感謝しているように。