料理人同士が共鳴し合い、敬愛しあい、
互いの魂が融け合い、極上の時間が生まれた。
ボクの大好きな2人の料理人を、それぞれ引き合わせた。
オーストリア料理の神田真吾さん。
日本料理の伊藤勝さん。
最初は、神田さんを伊藤さんの店に案内した。
次に、伊藤さんを神田さんの店に案内した。
すっかり意気投合した2人は、ボクの知らないところで、
この日の企画を立てていた。
だが、ミスターボンド氏としては、
紹介した2人が親密になっていくのは嬉しい限りなのだ。
2人は、互いの食材を交換し、ジャンルを超えた料理に挑んだ。
神田さんが使う、乳飲み仔牛や信濃雪鱒やポルチーニなどを、
伊藤さんが和食に仕立てる。
伊藤さんが使う荒海ホタテ、いわて短角和牛、
遠野アルプスチーズ、三陸あわび茸、岩手鴨、遠野の山葵など、
岩手の食材を使ってオーストリア料理に仕立てる。
互いに化学反応が起き、絶品が生まれた。
2人は、とにかく楽しそうだった。
前菜4品。誰がどれを作ったか、わからないでしょ?
信濃雪鱒とアスパラ豆腐のすまし汁。(伊藤さん作)
極薄のパイ生地に荒海ホタテが入っている。
たった1行で済ましては申し訳ないほど手が込んでいる。
極薄にするまで、どれだけの時間と手間がかかっていることか。
さぞかし、包まれたホタテも喜んでいることだろう。(神田さん作)
未体験の食感の茶碗蒸し。この中に乳飲み仔牛が入っている。
ボルチーニ茸の摺り流し掛け。(伊藤さん作)
短角牛のソテーと言い切るには申し訳ないほど手が込んでいる。
フランツヨーゼフ皇帝が好まれた料理だが、
皇帝もきっと岩手短角牛をお気に召したことだろう。
添えてあるポテトグラタンも、申し訳ないほど手が込んでいる。
岩手遠野のアルプスチーズとポテトの相性抜群。
ポテトとチーズのミルフィーユって感じ。(神田さん作)
酒粕アイス。岩手の最高級純米大吟醸の酒粕を使用。
砂糖は、和三盆。まるで和菓子。
破顔一笑。ストイックな2人のこんな笑顔、見たことない。
ボクは、2人へのオマージュを朗読。
2人の料理人のファンである木村まさ子さんも、
2人の原点である「母の味」について語ってくれた。
料理が出る前の「朗読」で、心が和らいだと言ってくれた人がいた。
料理とことばで「美味しい時間」になったようだ。
サプライズで誕生日も祝ってもらった。
厨房のムードが料理にも出ていた。
料理人の魂は、食べる人の魂も震わせ喜ばせた。
神田さんも伊藤さんも、
見えないところ、目立たないところに、いくつもの工夫をこらす。
自分の流儀、自分の姿勢を崩さない無骨さが魅力の2人だが、
この日ばかりは、達成感のある笑顔を見せていた。