ほんとうに、この人は万事に「そつ」がない。
商売人だから、当たり前と言えば当たり前なのだが、
それにしてもなのだ。
だが、その「そつ」は、上辺だけのものではない。
目が本気を物語っている。
「蚕が吐き出すたった一本の糸から日本人を輝かせたい」と
本気で思っている。
呉服店『銀座もとじ』社長、泉二弘明(もとじ こうめい)さんに、
どうすれば「そつ」がなくせるのか聞きたくて、月刊『清流』の対談を
申し入れた。快諾してくださり、きょう開店前の店で語らった。
結果、ボクのあの手この手の質問に、すべて「そつ」なく答えてはくれたのだが、明確な手ごたえは得られなかった。
だが、なぜ「そつ」がないように出来るのかは、わかった気がする。
「かつて日本人の象徴だった着物を復権させ、日本人の物を大切にする心を育みたい」
「和の心、和の文化で世界をあっと驚かせたい」
その一念が、「そつ」を出させないのだ。
その思いを達成させるには、一分の隙も与えてはならないのだ。
退路を断って、目標を掲げ、実現してきた。
誰も試みたことのない初めてのことばかりに取り組んできた。
業界から非常識と言われたことを常識に変えてきた。
奄美の高校の恩師に言われた「反省しても後悔するな」を支えに。
だから、「そつ」の出番がないのだ。
生まれ故郷・奄美への思いも、並々ならぬものがある。
銀座への思いも、一入だ。
作り手が報われることを考え続けている。
販売員が、自分の扱う品物に誇りが持てるよう気配りしている。
お客の心を想像することを第一義に掲げている。
ここにも「そつ」がない。
いやはや「そつ」だらけのボクなどは、
誂えた大島紬に袖を通す機会を少しでも増やし、
泉二さんの足元に及ぶべくもないものの、
足元くらいにはたどり着きたい。
対談は、『月刊清流』8月号に掲載予定。
(泉二弘明さん)
(撮影・中川真理子)
(奄美大島で5年、機織り修業して、
この4月「もとじ」に入社した清田寛子さん。
これからデモンストレーションを兼ねて、店頭で大島紬を織る)