ちょうど、その時、丹波でFM805のリポータ研修が終わったところだった。
携帯にニュース速報が来た。
「稀勢の里逆転優勝」。
嬉しくなって、研修参加者に報告した。どよめきと歓声があがった。
信じられない。そうなると信じていた。感動した。
そんな感情がないまぜになったどよめきと歓声であったろう。
相撲の神様は、なんという筋書きを用意されるのだろう。
新横綱・稀勢の里は、初日から12連勝。
白鵬休場、鶴竜と日馬富士不調の中で、誰もが稀勢の里の優勝を疑わなかった。
もし、ぶっちぎりの15連勝で優勝していたら、あれほどの感動はなかったろう。
アクシデントは、13日目に起きた。
日馬富士の速攻に押し倒され、土俵下に落ちた時、左肩を痛め、顔をしかめた。
救急車で病院に向かったときは、休場も取り沙汰された。
強行出場に踏み切ったものの、14日目は、鶴竜に2秒で寄り切られた。
得意の「左」が使えない。力が入らないのは歴然としている。
誰もが、千秋楽に「感動」が待っていることは予想しなかった。
だが、奇跡は起きた。
いや、奇跡というより、稀勢の里自身が言うように、見えない力が働いたのかもしれない。
本割、優勝決定戦と、照ノ富士を連破。
稀勢の里は、初土俵から89場所、大関昇進後31場所、優勝杯を手にしたことがなかった。
何度も何度も優勝の機会を逃してきた。
そして、先場所、悲願の初優勝をとげ、横綱昇進を果たした。
新横綱として、真価が問われる今場所。またも目前で優勝を逃すかと思われたが、
相撲の神様は、今度は見放さなかった。
賜杯を抱く前、場内に流れる「君が代」を聞きながら、
稀勢の里は、人目もはばからず、男泣きした。
その姿に、みなが感動した。
人がなんと言おうと、黙々とやることをやってきた男が、ようやく報われたのだ。
嬉し涙はいいもんだ。
しこ名には、「稀な勢いで駆け上がる」という思いが込められている。
綱を張ったいまこそ、稀な勢いが出てきたようだ。
同じ部屋の高安も13勝。来場所に大関がかかる。
照ノ富士も、この悔しさをバネにだまってはいないだろう。
横綱3人も、このまま引き下がらないだろう。
大相撲が、ますます面白くなっていく。