トミーとトニー | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

神田神保町の豊國アトリエの会場には、

猛暑の中、いっぱいの40人が集まった。

開演30分前には、満席になったので、サービストークもした。


絵本『トミジの海』朗読会。

絵本は、宮城県石巻市鮎川浜の漁師、

齋藤富嗣さんの実体験にもとづくものだ。

地震が来たら沖出しという言い伝え通り、

30メートルもの津波を小船で乗り越えた壮絶な体験だ。

この絵本を、

じっくり時間をかけて広めていこうという企画。

5月のキックオフイベントを受けて、きょうは第一回。


前回、
鮎川浜に心は飛び、そのときの富嗣さんの想いに寄り添い、

没入して朗読し、読み終えたあと、戻ってこれないくらいだったので、

今回、どうなるのかと思ったが、また新たな世界が出来あがったように思う。

絵を描いた墨絵画家の本多豊國さんも、

「涙出そうなくらい、よかった」と言ってくれた。

息子の本多優太さんは、「前回は出した感じ。今回は入った感じ」と

表現してくれた。


豊國さんとのトークは、今回も面白真面目な感じになる。

ボクが、朗読は、感情移入のさじ加減が難しいと言うと、

絵もまったく一緒だと豊國さん。

津波の実態を知らない自分が、大袈裟にも描けないし、

単なる想像でも描けないという。

そこで、何度か鮎川浜に足を運んだ。

齋藤さんと本多さんは、酒を酌み交わし意気投合し、

トミー(富嗣)、トニー(豊國)と呼び合うまでになった。

酒を飲みながら体験談を聞き、船に乗せてもらい「沖出し」を体感した。

その上で、何度も悩みながら描き直しながら、完成させた。

その絵を見て、トミーも「その場に居合わせたようだ」と感心してくれた。


死と隣り合わせの「沖出し」を描いた絵本の最後は、

命の息吹きが感じられる。

家の土台だけが残る更地に、花が咲き、蝶や蜻蛉が舞う。

豊國さんの描く『トミジの海』には、「生活」が描かれている。

それは「生きる」と「活きる」。活力をもって生き切ること。

絵本の中で富嗣さんが言う。

「オレは何があっても生きる。絶対に生きのびる」と。

それは、

2つの大病で死線をさまよい、乗り越えた豊國さんの思いでもある。

トミーとトニー、最強のタグを組んで生まれた絵本を、

大切に読んでいきたい。


次回は、世田谷の龍雲寺で10月9日(日)、

「いのちの絵本」として開催予定。



(本多豊國さん)