孤高ののちに見えた世界 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。

いろんな雑誌が創刊されては消えていく。


いろんな雑誌を購読しては、やめていく。


そんな中で、来年創刊80周年を迎える雑誌がある。


ボクも中学生の頃から欠かさず購読しているから、


かれこれ50年ほど愛読していることになる。


『将棋世界』。いわずと知れた将棋の専門誌だ。





その6月号に興味深い記事を見つけた。


報知新聞の将棋記者の北野新太さんが、


女流棋士の第一人者、清水市代さんと対話した記事だ。


長年、将棋の取材に関わってきたからこそ、


清水さんの本音を引き出せた内容のある「対話」だった。





清水市代さんは、


タイトル戦登場70回、タイトル獲得43期の輝かしい棋歴の持ち主だ。


だが、番勝負に勝てない。12連敗。無冠になって6年。


だが、ひるまない。何回も何回も不死鳥となってタイトルに挑戦してくる。


高みについてもなお、闘争心が消えない訳の一端が、


この記事を読んでわかった気がする。


それは、里見香奈さんの存在だ。里見さんは、現在、女流四冠王。


これまで多くの女流棋士の壁になってきた清水さんだが、


いまは、里見さんが清水さんの壁になっている。


今期女流名人戦もフルセットの末に敗れ、リターンマッチにならなかった。


だが、嬉しい楽しい面白い悔しい・・・あらゆる感情を得て、


幸せだと感じたそうだ。里見さんと指すのが楽しいのだ。


里見さんに惹かれ、一緒にいて心地よいのだそうだ。


一途に命がけで将棋に向かっているので、気持ちが引き締められるという。





ボクも清水さんがタイトル戦の常連になり始めたころ、親しくしていた。


一緒に食事に行き、孤高ゆえのお悩みを聞いたこともある。


いつも一人だった。一人で頑張っていた。


彼女自身も、それが当然と思っていたが、


だんだん近寄り難くなり、このところ疎遠になっていた。





女流の王者としての地位を極め、


もう次なる目標がなくなってもおかしくないのに、


将棋を指すことが面白くてしかたないのだそうだ。


タイトルを失って見えてきたものがある。


かつては0か100と思っていたが、


そうでないところで積み重ねられるものもあると気づいた。


負けて味わう奥深さがあるということだ。


それを教えてくれたのが、里見香奈さんだ。


好敵手というより、同志を得た気分だろう。


里見さんも「清水さんは自分を解放していると感じた」と言っている。


去年6月から女流棋士会長にもなった。


自分のことだけに集中すればいいという時期ではなく、


女流棋士界全体を考えなければならない。


孤高の末に見えた新たな世界を、清水さんは楽しんでいるようだ。


楽しめるようになったようだ。


いま、猛烈に清水さんに会いたくなった。