人気小説『みをつくし料理帖』シリーズが完結し、
寂しく思っていたら、満を持して、高田郁さんが新しいシリーズを始めた。
『あきない世傳(せいでん) 金と銀』
世傳とは、代々に渡って伝えていくという意味だ。
主人公・幸が知恵を絞り、商いの道を歩む様が、後々まで伝わるようにという
思いも込められたタイトルだ。
とにかく面白い。
第1巻は、12章に分かれ、展開が早い。
あれとあれよと言っているうちに、おいてきぼりをくいそうなくらいだ。
登場人物が魅力的だ。
主人公・幸(さち)は、学問に才がある。
摂津の村で、学者の父、働き者の母、秀才の兄、かわいい妹に囲まれて
幸せに暮らしていた。
特に兄が魅力的だった。
川面を見ながら、「朱と黄が交じり合ったような夕陽の輝き、あれが金色。
川面の煌びやかな色が銀色。どちらも天から与えられた美しい色」だと、
教えてくれた。感性の豊かな優しい兄だった。
その兄が、突然亡くなる。
この展開はないでしょと、読者のムラカミは慌てた。
商いを信じていなかった父も、後を追うように亡くなる。
そして、幸は、父が嫌っていた商家で働くことになる。
大坂・天満の五鈴屋(いすずや)に女衆(おなごし)として雇われる。
五鈴屋にも複雑な事情があった。
長男、次男、三男が、個性的。
お家さん・富久の息子(先代の三代目徳兵衛)は、若くして亡くなり、
三代目の長男が、遊女遊びが好きな放蕩息子の四代目徳兵衛。
嫁に来た、天真爛漫な菊栄が救いだったのだが、わずか2年で離縁する。
次男が商いに才のある惣次だが、短気。すぐ暴言を吐き暴力をふるう。
三男が戯作が好きなボンボンの智蔵。優しい人柄。
五鈴屋の番頭が治兵衛さん。
この治兵衛が、幸の商才を見抜く。
第一巻の最後で、治兵衛は、あることを思いつく。
「空を呑みこみそうな勢いで笑う」。
「心の池に石を投げ込んだことに気づいていない」。
うーむと唸りたくなるような見事な表現も随所に。
人物描写もうまい。誰が演じたらいいか役者の顔を想像しながら読む。
幸は、やはり黒木華かなぁ。
治兵衛は、やはり近藤正臣かなぁ。
『あきない世傳』は、まったく「あきない」小説。
電車の中でも、周囲の雑音が気にならないくらい読み耽った。
早く次が読みたいが、綿密な準備をしてから書く高田さん、
ずいぶん先のことになることだろう。
待つことに「あきない」うちに、次を読ませて~。