豊島区要町。
両側に商店が並んでいる細い路地を歩き、
ひょいと脇道にそれると、住宅街に入る。
その一角に、山田和夫さんの家がある。
家の玄関先は、毎週水曜日だけ「パンやさん」になる。
ガンで逝った妻が遺したレシピを見ながら、
試行錯誤で作り上げたパン作りが、いまは軌道に乗っている。
もともとは、ご飯党。妻が始めたパンやさんを遠巻きに見ていた。
いや、経営の仕方に疑問を感じ、上から目線で口出しをして、
「離婚問題」に発展しそうになったこともある。
サラリーマンだった夫が、
妻の精魂込めたぱんやを、遺志を継いで続けている・・・
そう、美談仕立ての話だけではないようだ。
もともと、玩具会社でおもちゃの開発に携わっていた山田さんは、
手先が器用なのだ。
妻ロス症候群にさいなまれ、茫然自失状態だった山田さんを救ったのは、
確かに、妻の遺したレシピだった。
実のところ、妻に託されたものの、半年ほど置き去りにしていた。
その存在を思い出し、レシピ通りに作ってみた。
なんとか形にはなるものの、満足のいくパンが出来るまでには、
3ケ月くらいかかった。
凝り性で、器用だから、やり始めると面白くなり、
焼きそばパン、コロッケパン、カレーパンなど、
自分好みのいわゆる「調理パン」を作り始めた。
天然酵母のシンプルなパンを作っていた妻が築いた路線とは
一線を画すものだ。
妻が開いていた水曜だけの「あさやけベーカリー」も再開した。
妻の友人知人が援助してくれた。
縁あって、ホームレスの人たちも受け入れ、一緒にパン作りをしている。
訳あって、弧食の子どもたちのための「あさやけ子ども食堂」も始めた。
山田さんから先入観、偏見、固定観念が消えた。
飄々と「生きる」ことを楽しんでいる空気が感じられた。
遠巻きに見ていたパン作りが、山田さんの人生に彩りを与えてくれている。
山田さんをゲストに呼ぶ
文化放送『日曜はがんばらない』は、今月21日放送予定。