圧倒され続けた寺山ワールド | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。





今年は、アングラ演劇の旗手、寺山修司の生誕80年。

47歳で亡くなった寺山が生きていれば、齢80となるわけだ。


寺山作品の上演を続けてきた「プロジェクト・ニクス」が

「新宿版千一夜物語」(1968年初演)を上演している。

寺山の劇団「天井桟敷」で舞台美術・宣伝美術を手掛けた

宇野亞喜良(あきら)さん(80)が構成・美術を担当し、

唐十郎主宰の「状況劇場」で活躍した大久保鷹や、

「天井桟敷」の中心的俳優だった若松武史など、

アングラ界の看板俳優が集結している。

寺山が駆け抜けた1960~70年代は、

エネルギーにあふれ、熱いものがあった時代。

その時代に、革命とエロスが混在した新宿・歌舞伎町の世界を描いた作品。

いわゆるエログロナンセンス。狂気と混沌と矛盾を抱えた社会。

これもまた現実。

「書を捨て町へ出て」現実から目をそらしてはなるまいと

寺山は、訴えたかったのかもしれない。


寺山作品を目の当たりにしたのは、おそらく初めてだ。

今回シェヘラザード役のサヘル・ローズさんからの案内がなければ

足を運ばなかっただろう。

彼女も肌をさらしながら、体力精神力のいる芝居に体当たりで臨んでいた。

いままでにないサヘルの片鱗を見た気がする。

サヘルの今後に、佳き化学反応をもたらしてくれたらいい。

この芝居は、観客にも体力精神力がいる。

めまぐるしく動く舞台に、動体視力が鍛えられる。

ヘビメタの大音響に、聴覚が驚く。

だが、60年代70年代のやや退廃的な音楽にほっとする時もある。

中でも、中島みゆきの「世情」が心に残る。

♪世の中はいつも変わっているから

 頑固者だけが悲しい思いをする

 変わらないものを何かにたとえて

 その度崩れちゃ そいつのせいにする


 シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく

 変わらない夢を流れに求めて

 時の流れを止めて 変わらない夢を

 見たがる者たちと戦うため♪

みゆきはすごい。いつまでたっても色褪せない。

芝居の中で繰り返される台詞にも

「苦しみは変わらないけど、変わるのは希望だけだ」とある。

変わることも、変わらないことも、人生。

変わりたいと思っても変われないのも人生。

変わってほしくないのに、変わってしまうのも人生。

寺山も、みゆきも深い。

圧倒され続け、脳味噌がぐちゃぐちゃだ。



「新宿版千一夜物語」は、

今月25日まで、東京・池袋の東京芸術劇場シアターウエストで。

今年は、寺山イヤー。あちこちの劇団が、寺山作品を上演するようだ。


寺山修司は、1935年生まれ。

青森県出身の劇作家、歌人。

評論集「書を捨てよ、町へ出よう」は当時の若者たちに大きな衝撃を与え、

舞台・映画化もされた。

67年、演劇実験室「天井桟敷」を結成。

「状況劇場」(紅テント)の唐十郎らと並び「アングラ四天王」と呼ばれ、

70年代に続く小劇場ブームをけん引した。

膨大な文芸作品を残し「言葉の錬金術師」との異名も取った。

83年に47歳で亡くなった。