初春の江戸から、力さん秀さんが来た | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。



初春1回目の恵比寿。

江戸時代から、二人の「いい男」が来てくれた。

野太い声、やや伝法な口調で、言いたいこと聞きたいことを

話してくれる時代小説の名手、山本一力さん。

高知生まれだが、江戸育ちのよう。

江戸時代のことは、めっぽう詳しい。


一力さんが、小説の中で書いてきたのは、

「小賢しいことは言わず、

 自分の言葉に責任を持って生きていく人間」だ。

現に、そういう粋な人間が揃っていた。

「角を曲がって人が待っているとすると、

 そこにどうやって行き着くかを書くのが小説だ。

 その途中にどれだけの物語が潜んでいるか、

 説明でなく描写で読ませる。丹念な仕事をする気力が必要だ」

アナウンサーの実況描写にも通ずる話だ。


昨夜は、慮りや想像力が欠如した現代を憂えた話が中心だった。

江戸の人々には、「身の程」」をわきまえ、

人のせいにしない、いわば「自己責任」があった。

だが、江戸時代人の美質は、現代人にも確実に受け継がれているはず。

眠っているものを思い出せばいいのだ。

そういう意味で、時代小説を読んだり、作家の話に耳を傾けるといい。

江戸の調べに耳を傾けるのもいい。

江戸端歌の第一人者、本條秀太郎さんの艶のある声に痺れた。

ムラカミの朗読に合わせて、即興での演奏にも痺れた。

江戸時代のことは、徳川家康の名前くらいしか知らないと言っていた

19歳の女子大生が、

「江戸時代に関心が湧いた」と感想を聞かせてくれたのが嬉しかった。

「自分を含め若い世代は歴史に興味がない人が多い。

 日本の歴史を学ぶことは、日本人として生まれてきた以上、

 大きな意味があると、強く感じた」

この気づきが嬉しい。こういう機会を作った甲斐があったというものだ。

19歳の心が動いた。

心を動かしたのが、力さんの野太い説得力のある声と

秀さんの艶のある美声、川の流れの変化を表現する繊細な三味の音色で

あったことはいうまでもない。

力さん、秀さん、江戸時代から、はるばる有難う。




(左から本條秀太郎さん、山本一力さん)