関西大学で、一日だけの教授をしてきた。
ムラカミの時代小説指南、関西大学の薮田實教授に依頼されて、
『知へのナビゲーション』という講座の1コマを持たせていただいた。
この講座は、文学部1回生を対象にしたもので、
文字通り、知識を広げる、人間としての幅を広げることを目的にしたもの。
講座の1回目に、
700人の新入生を前に、25人の教員が3分プレゼンをする。
その内容をもとに、受講したい講座を選択する。
薮田教授は、スキルよりマインドを大切にしたい、
出会いの場にしたいと考えている。
講座は、「自己紹介」、
「日本のどこかで」と「世界のどこかへ」というテーマでのプレゼンを3回ずつ。
その中に、ムラカミ臨時教授の「よかった探しの他己紹介」が入った。
講座開始の9時と、講座終了の10時半では、温度がまるで違った。
最初は、様子を探り気味だった学生たちも、
よかった探しをし合ううちに、しだいに和んできた。
見知らぬボクを見る目も、親しみを込めたものに変わってきた。
「自分の好きなことを率先してやる」
「人見知り激しい自分が話しやすい」
「周りに融け込む力がすごい」
「底抜けに明るい」
「薄っぺらい自分を美化してくれる」
「人の目を見て話してくれる」・・・
具体的なほめことばが次から次に出てくる。聞いていて清々しい。
講座終了後は、写真タイム。
ボクとツーショットを撮りたいという学生が次々現れた。
そのうちの1人、尾崎史明くん。
(尾崎史明くんと)
尾崎くんは、きょうの学生の中で、唯一、ボクを事前に知っていた。
彼は、高校生の時、自分の居場所が見つからなくなり、
学校を辞め、一人悶々を辛い日々を送っていた。
そんなとき、『ラジオビタミン』を聞いていたというのだ。
文字通りのビタミン補給が出来たという。
そのお礼のお便りを書こうと思っているうちに、
番組が終わってしまい果たせずじまいだったが、
まさか、こうして生ムラカミに会えると思わなかったと喜んでくれた。
関西大学に来て、ようやく居場所が見つかったようだ。
彼のプレゼンは、ユーモアもあり、内容もあり、何より「伝わる声」だった。
辛い日々があったことなど、まったく感じさせない。
いや、辛い日々があったからこそ、いまの彼があるのだろう。
彼は、言った。
「何も嬉しいことがないと言った彼のそばに寄り添いたい」と。
ムラカミ臨時教授は、嬉しくて嬉しくてしかたなかった。