原作と違わぬ「永遠の0」 | 村上信夫 オフィシャルブログ ことばの種まき

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元NHKエグゼクティブアナウンサー、村上信夫のオフィシャルブログです。





小説の映画化は、なかなか原作を上回れないという定説がある。

今回は、その定説が裏切られた。

百田尚樹さんの原作と遜色なく、また原作にはない持ち味もあった。

メガホンと取ったのは、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの山崎貴監督。

百田さんは、これまで映画化を断ってきたが、今回は脚本を見て、即OKした。


司法試験に落ち続け、人生の目標を失いかけた

青年・佐伯健太郎(三浦春馬)と、

フリーライターの姉・慶子(吹石一恵)は、

祖父だと思っていた賢一郎(夏八木勲)とは血のつながりがなく、

本当の祖父は太平洋戦争で特攻により戦死した

宮部久蔵(岡田准一)という人物であることを知る。

久蔵について調べ始めた2人は、祖父が凄腕のパイロットであり、

生きることに強く執着した人物であったことを知る。

そんな祖父がなぜ特攻に志願したのか…。

元戦友たちの証言から祖父の実像が明らかになっていき、

やがて戦後60年にわたり封印されてきた驚きの事実にたどり着く。




宮部久蔵役の岡田准一さんが素晴らしい。

妻や子に見せるとびきり優しい笑顔

同輩や後輩に見せる親しげな笑顔

「臆病者」と言われたときに見せる、はにかんだような笑顔

特攻で散る直前の微笑を浮かべたような表情・・・

全部、意味の違う笑顔で、それぞれ内面を表している。


妻や子のために「死ねない」戦いをしてきた宮部が、

教え子たちたちが特攻で戦死していくさまを目の当たりにして

憔悴し、鬼気迫る表情に変わっていく。

虚無の中にいる宮部の演じ方は、リアルだった。


宮部を語る戦友たち役の平幹二朗、山本學、橋爪功、田中泯が、

これまた名演技。

夏八木勲さんは、この映画に出たあと、亡くなっただけに、

「生きているうちに戦争のことを伝えたい」という台詞が胸に迫る。


若い人たちが合コンしているシーンで

「特攻なんてテロと一緒じゃん」という台詞が出てくる。

テロと一緒にしてもらっては困るから、あえて、この台詞があるのだろう。

若い人に考えてほしいから、このシーンがあるのだろう。


死にたくて死んだ人たちなんていない。

愛する人や愛する国を本当に守るためになら、死にたくはなかったはずだ。

だが、多くの人が死んでしまった。

戦争は、永遠にしてはならない。