方向補語の続き。
ここに至る背景はこちらを参照してください。
さらにはこちらもご覧いただくことをお勧めします。
ここから先は結構専門的にになる(かもしれない)ので、より分かり易くお伝えしますが、大前提としてピンインは使いませんので、中国語の発音がわからない、と言う人はあきらめてください。
ピンインを使わない理由は、ピンインには政治的背景があるからですね。
音韻的には一部不都合な点もありますが(iongなど)、かなり完成度の高い発音表記法ではあると思っています。
また、実用的にもキーボード入力などでもかなり重宝しますね。
しかし、権力が文化を縛るとろくなことがない、という事は以前にも書きました。
漢語にはもともと半切法という発音表記法があり、これは漢代にインドから仏教が伝わったことで「シナチベット語族」である漢民族が「インドヨーロッパ語族」の仏教に触れ、己の音韻体系を自覚することにより開発された発音表記法です。
中国語の音節を声母と韻母に分割するという考え方自体はピンインにも受け継がれていますし、中華民国の採用する注音字母も基本的な構造は同じです。
ではなぜわざわざ半切でもなく注音字母でもなく、ピンインを制定する必要があったのか。
1950年代初め、当時はまだワープロやパソコンは全く普及していないので、「キーボード対応」が目的ではないことは明白です。
ここで登場するのが漢字全廃論です。
半切も注音字母も基本的には「漢字を読むため」の発音表記法であり、単体では意味が解りません。
一方、ピンインは「中国語の音節を漢字を使わずに表記するため」に開発された発音表記法で、漢字と直接関係ないという事が特徴です。
これは何を意味するのかと言えば、ソ連型社会主義建設のためすべての文字をアルファベットに置き換えようという思想が根底にある、という事です。
漢字文化圏では漢字全廃はあまり成功していません。
朝鮮民族は過去の文献を読むことを放棄して民族の歴史を捨ててしまいましたし、ベトナムもしかりです。
同じ道を初期の中華人民共和国は歩もうとしたのです。
文化大革命で頓挫しましたが、漢字全廃の流れは出来ていたのです。
1952年に第一次簡体字表とピンイン表記法が公表され、実施されます。
1959年までに第二次簡体字表の作成は完了しており、公表され施行を待つ段階でしたし、第三次簡体字表の準備も進んでいました。
第一次から第三次までの簡体字表で漢字全廃の道筋をつけることとしたため、第四次簡体字表は存在しません。漢字はもういらない、という事です。
文化大革命の唯一の功績は、漢字全廃の流れを打ち砕いた、という一点にあるかもしれません。
だから私は積極的にピンインを(記録用には)使いません。
便利なのは確かなので…入力には使います。
またまた本題に入るまでに長い助走になってしまいました。