中国語はシナチベット語族に属する孤立語の一言語。
正確に言うと、我々が通常会話や文章で使っているのは殆どが普通话という人造言語で、母体は北京語。
要するに政治的理由で作られた言語で、この起源は北方官話に行き着く。
北方官話は満州族が清朝を打ち立てた時に行政共通語として採用した北京語を基礎とする言語で、大清国の版図内であればどこに行って、この言葉で会話するのが官僚の決まり事だった。
何故北京語が基礎とされたか。
それは、明朝が当初南京を首都としていた(のちに北京に遷都)ため、明朝の官話が南京語を基準としていたため。
要するに「明朝はだめ、漢民族はだめ」が清朝の国是だったという事。
辛亥革命で清町が倒れ、漢民族の国家である中華民国が成立すると、当然のことながら北方官話は見直されることになった。
しかしここで大きな問題が…
外交上の問題があってね。
少し脱線するけど、清国にとっての外国の位置づけ。
清朝最盛期まで中華思想に「外国」という概念は存在せず、「国」を名乗ることが許されるのは中華の天子を頂く帝国のみ、それ以外はすべて蛮夷であり夷狄…要するに文明外の存在だから、朝貢によって中華の徳を四方に輸出する、という考え。
一方、当時の西欧の基本思想はキリスト教徒以外は人間じゃないからキリスト教に改宗させるか、奴隷にするか、二者択一的な植民地政策を進める思想。
どちらがいいか悪いかは当時の人たちが持っていた価値観によるものだから、現代の物差しで測ることはよくないけど、この二つを比べる限りは個人的には中華思想の方が好きだね。
で、清国には当然のことながら外務省が無かった。
理藩院という、中華世界以外の問題を処理する役所が外務省の代わりをしていたけど、西欧諸国もここで外交手続きをしていたわけ。
清朝が衰退期に入ると外国という概念を認めざるを得なくなり、外国と条約を締結することになった。
その時、使われていたのが北方官話だから、国際条約やら交易ルールやらなにやらすべて北方官話が基準になってる。
去年まで日本語は薩摩方言でしたが、今年から津軽方言に変えます。
こういわれたら、日本人でも困るけど外国人はもっと困るよね。
まして中国の方言は地方方言というより同じ文法構造と音素を持つ別の言語、と言えるほど違うから。
結局、中華民国は南京方言を国語とすることをあきらめ、北方官話を国語としました。
この「国語」という言葉は、19世紀初頭に欧米で急速に進んだ国語運動を受けて制定された中華民国の法律用語。
国語運動についてはどこかで書くかもしれないけど、本題じゃないからとりあえず今はスルー。
で、国民党の中華民国が三民主義、共産党の中華人民共和国が社会主義を奉戴して(要するに掲げて)国共内戦となり、1949年に中華人民共和国が成立すると、中華人民共和国では国語も廃止される。
そりゃそうだ、中華民国の法律なんだから。
ここから先は少し中華思想と共産思想が入り混じりながら、政治的な思惑も絡んで複雑な過程を踏むけど、結局普通话が制定されてピンインが法的に確定する。
これ、悪い意味で画期的なことなの。
日本では「日本語を公用語とする」という法律はないし、「ひらがな、カタカナ、漢字を日本語の標記に用いる」という法律もない。
だから新聞雑誌、時には教科書にまでローマ字、英語、アラビア数字漢数字、場合によってはローマ数字とかいろいろ入り混じる。
無論、文科省管轄で国語審議会が決めてる「当用漢字」とか「常用漢字」はありますよ。
でも法務省が決めてる「人名漢字」もあるよね。
さらには経産省管轄のJIS規格漢字もある。
ぼうとく:文科省は「冒とく」、JISは「冒涜」、一般的には「冒瀆」
ひのき:文科省は「ヒノキ」、法務省は「檜」、経産省は「桧」、一般的にはどれでも通じる
こんなことが日常茶飯事。
話がそれたけど、漢字を含めた文字とは本来、須らくそうあるべきものであり、「この字はこう書く、こう読む、こういう意味」と法律で決めると文化の発展はない。
逆に決まっていないから、「桜木と書いてバカと読む」とか「強敵と書いて『とも』と読む」や「本気と書いてマジと読む」ことが出来るわけ。
だから今の中国には…
いやいや、ここまでとしておきましょう。
本当に言いたいことは「中国語の奥深さ」であり、今回はその前書きだね。